税理士事務所向け業務管理ツールFLOWClick!

AIで楽になる事務所、楽にならない事務所。分かれ目は、組織のつくり方にあります

目次

はじめに:ご相談の質が、変わってきました

最近、所長先生方とお話していて、感じることがあります。

ご相談の中身が、ここ半年でぐっと変わってきたんですよ。

半年前までは、「うちでもAI使えますかね?」
「どのツールがいいんでしょう?」というご質問が多かったんです。

それが今は、
「1人で60社をAIで回している人がいるらしいんですけど、うちでも同じことできますか?」
「監査担当のAI利用ルールのガイドラインを作りたい」
「こういうアプリ作れます?」
「AI-OCRを使ってみました。これを全社展開する方法を……」というご質問に変わってきています。

ぐっと、具体的なんですね。

これは、AIが現場で本当に動き出した、ということだと思います。

仕訳の自動化、議事録の文字起こし、月次レポートの下書き、面談の要約。

ツールも増えました。事例も増えました。

所長先生方は、確実に情報を持ち始めていらっしゃるんですね。

ただ、ですね。

AIを使いこなすための相談が増える一方、あまり熱の入らない先生もいらっしゃるんです。

それは、一定以上の規模の先生に多いなと。

もちろん、AIを使わない、感度が低い、ということじゃないんですよ。

逆なんです。

ある程度いろいろ使った上で、私とのコンサルの場に、AIの話を出さないんですね。

つまり、相談の議題にならないんです。

なぜ、そういった先生方は、AIを話題に出さないのか。

AIをテーマにしたときに、そのゴールは何なのでしょうか。

私なりに考えてみたんですが、AIって「中間の作業を圧倒的に速くする道具」に見えますよね。

ところが、実際には仕事の構造そのものを変えてしまう道具だからなんです。

「中間作業を1割短くする」話と、
「仕事の構造を変える」話は、
そもそも議論しているレイヤーが違う。

ここがズレたまま会話するから、答えがぼやけてしまうのかなと。

このブログでは、会計事務所の現場でいま起きていること、
AIで仕事の工程がどう分解されつつあるか、
そして所長先生が次に何を考えるべきか、私なりにじっくり整理してみます。

正直に申し上げて、長くなります。本当に長くなります。

ただ、もし5名以上の事務所を経営されている所長先生でしたら、
最後まで読んでも損はしないと思っています。

私の自己紹介を簡単に。

私は会計事務所向けの業務管理SaaS「FLOW」を提供している株式会社フローリーの代表をしております。

並行して30社弱の会計事務所さんに月次でコンサルティングをさせていただいていまして、
ご支援している事務所さんの規模は5名から200名規模まで幅があります。

AIに代替されない領域がある、と信じてこのお仕事をしています。

同時に、AIに代替される領域もたくさんあることもわかっています。

両方を見たうえで、書きます。

~~~

なぜ、私がこの議論をするのか

もう1つだけ、ご理解いただきたいことがあります。

私がこのブログで、
こんなに長々と「中間工程」や「責任の設計」や「組織の階層」について語っているのは、
FLOWを開発している立場だからなんですよ。

FLOWは、業務管理SaaSです。

「業務管理」というカテゴリは、まさに今、AIで揺らいでいる領域なんですよね。

「AIが進化すれば、業務管理ツールなんていらなくなるんじゃない?」

「全部AIが管理してくれるんじゃない?」

そう言う方も、実際にいらっしゃいます。

~~~

私自身、毎日、こう問い続けています。

「FLOWって、結局、何なんだろう?」

「FLOWは、所長先生の何を、解決しているんだろう?」

「AIが進化したら、FLOWは、どう変わっていくべきなんだろう?」

これらに、真剣に向き合わないと、私たちの存在意義そのものがなくなります。

その模索の中で見えてきた整理が、このブログなんですよ。

ですから、このブログは「会計事務所さんへの提言」であると同時に、
「私自身が、自社のサービスと向き合う中で出てきた、思考の記録」でもあるんです。

そういう前提で、お読みいただけたら、ありがたいです。

~~~

このブログの射程を、最初にお伝えしておきます

それから、もう1つ大事なお話があります。

このブログで扱うのは、
「役務提供と組織管理」の観点から見た、AI時代の会計事務所さんです。

具体的には、こういうことです。

  • 顧客に提供する役務(記帳、申告、コンサルなど)
  • それを組織として回す仕組み(業務管理、責任、品質、育成)
  • これらが、AIでどう変わるか

~~~

ただ、所長先生が向き合うべきテーマは、これだけじゃないんですよ。

  • 事業戦略・サービス設計
  • 人事制度・評価・報酬・キャリアパス
  • 財務・資金・投資判断
  • 経営理念・ビジョン
  • 事業承継・M&A
  • 業界活動・社会的責任

これらも、AI時代に確実に変化していきます。

ただし、本ブログでは、ここまで踏み込みません。

1本のブログで全部やろうとすると、議論がブレてしまうからです。

~~~

ですから、本ブログは「役務提供と組織管理に絞った、深掘り回」とお考えください。

その他のテーマは、別シリーズで、別ブログで、お話ししていきたいと思っています。

「あ、ここは書かれていないな」と感じる部分があったとしても、
それは見落としではなくて、意図的に射程の外に置いている部分です。

逆に言いますと、本ブログの中の議論は、
「役務提供と組織管理」の領域で、徹底的に深掘りしたものになっています。

長くなりますが、ご一緒に、お付き合いいただけたら、ありがたいです。

~~~~

1. 「1人で60社」の話、ちょっと冷静に見てみませんか

最近、業界でこういう事例が話題になっていますよね。

「1人で60社の顧問先を持っている」
「スタッフ0名で回している」
「毎晩21時にAIが60社の仕訳を自動処理してくれる」
「人件費数千万円かかるはずの作業が、0円で済んでいる」

すごいですよね。

実際、技術的にも経営的にも、よく考えられている事例だと思います。

ただ、ですね。

ちょっと立ち止まって考えてみたいんです。

私は、知っている限りの組織さんで
実際にAIをどう運用しているかをたくさん見させていただいています。

その肌感覚で正直に申し上げると、
この事例、世の中で語られているほど劇的な数字ではないんです

ぶっちゃけて言ってしまうと、1人で60件回す事務所さんって、
クラウド会計をフル活用していれば、それなりにいらっしゃるんですね。

フリーやマネーフォワードをうまく使い込んでいる個人事務所の先生方を見ていますと、
60件、70件、なんなら80件を1人で持っている方って、
普通にいらっしゃいます。

「すごく多い件数とは言い切れないかな」というのが、正直なところです。

別にその先生のお仕事を否定しているわけじゃないんですよ。

AIをきちんと使い込んでいて、
業務設計もしっかりされていて、
これは本当に素晴らしいことなんです。

技術理解の深さ、AIの使い込み、業務設計のセンス。

私自身、教えていただきたいことが、たくさんあります。

ただ、世の中での語られ方として、
「AIで革命が起きました!」みたいに派手に消費されているのが、
ちょっともったいないな、と感じています。

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私自身のスタンスを、先にお伝えしておきますね

ここで、ちょっと正直なお話をさせてください。

私は、所長先生方をご支援する仕事を日々していますが、
私自身のスタンスとして、「組織化する道」を信じています

5人から10人へ、10人から30人へ、30人から100人へ。

人を採用して、育てて、文化を作って、組織として成長していく。

その過程で、所長先生も、職員様も、本当にたくさんの困難を乗り越えていかれます。

私もこれまで、いろんな困難を一緒に乗り越えてきました。

そして、乗り越えた先に、確かな価値があると、肌で感じています。

だから、私が記事を書くときも、コンサルティングをするときも、
ご支援するときも、「組織として、顧客の成功を一緒に作る事務所」を前提にしています。

~~~

ですから、正直に申し上げますと、
「1人で全工程をAIで回す」モデルは、
私が目指している方向じゃないんですよ。

否定はしません。素晴らしいお仕事だと思います。

ただ、私が日々お話している所長先生方の多くは、
組織として10人、30人、100人と成長していきたい方や、
社員の幸せを求めている方なんです。

そういう先生方に対して、
「1人モデルが利益率も高いし、気も楽だから、そのまま展開しろ」とは、
私は申し上げられないんですね。

これは、優劣の話じゃなくて、「あり方」と「目指す方向」の違いです。

そして、本ブログでこれからお話しすることは、
すべて「組織として、職員と顧客の成功を一緒に作りたい所長先生」向けの議論だと、
最初にお伝えしておきます。

1人モデルを目指される先生は、別のロールモデルから学ばれたほうが、いいかもしれません。

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「バズったもん勝ち」になっていませんか

最近のAI界隈、私はちょっと危険な空気を感じています。

「インプレッションを稼いだ人の周りに、ワーッと人が群がる」みたいな現象が起きていませんか。

「1人で60社」「全工程AI化」「会計事務所の常識を覆す」みたいな言葉が踊っていますよね。

それを見て、5人とか10人の事務所さんが、
「うちも同じことやらなきゃ」「乗り遅れたら大変だ」って焦ってしまわれる。

そのお気持ちはよくわかります。

でも、ちょっと冷静になりましょう。

その事例、本当にあなたの事務所で通用しますか?

ここを問わずに飛びつくと、危ないんじゃないかなと。

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1人モデルと組織モデルは、まったくの別物です

ここが、今回のブログで私が一番伝えたいことの1つです。

「個人として全工程をAIにやらせる」というのと、
「組織として各工程にAIを使う」というのは、まったくの別物なんです。

前者は、よほど技術と経営センスが揃った先生にしかできません。

そして、それが成立したとしても、組織にそのまま展開はできないんですよ。

なぜなら、5人以上の組織には責任の構造、
レビューの構造、育成の構造、お客様への一貫性、これら全部が乗っかってくるからです。

1人で完結する事務所と、
5人、10人、30人の事務所では、
「AIをどう使うか」の正解がそもそも違うんですね。

ここを混同したまま「うちもAIで自動化したい」と鼻息荒く突っ込んでしまうと、
半年後に「あれ、定着しないな」「むしろ管理が増えた気がする」ということになりかねません。

これ、本当にもったいないですよね。

なぜこういうことが起きるのか、ここから本格的に整理していきます。

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2. 会計事務所には、2つの顔があります

具体的な話に入る前に、1つ前提を共有させてください。

会計事務所さんって、私はけっこう特殊なビジネスだと思っているんですよ。

何が特殊かと言いますと、1つの事務所の中に2つの顔が同居しているんです。

1つは「工場」としての顔。

決まった業務を、事務所で決まった品質で、決まった期日までに処理する仕事。

資料回収、入力、チェック、試算表作成、申告書作成、納品。

製造ラインのようなお仕事ですね。

もう1つは「サービス業」としての顔。

知識と経験と、お客様との対話を通じて、顧問先に価値を届ける仕事。

経営状況を読み解いたり、課題を言語化したり、ご提案したり、意思決定を支援したり。

コンサルタント的なお仕事ですね。

同じ職員様が、ある日は工場の作業者として動いて、ある日はコンサルタントとして顧問先に向き合う。

製造業とサービス業を、同じ人が両立している。

これが、会計事務所さんの本当に特殊な構造なんですよ。

ですから、AIをどこにどう使うかを考えるときも、
この2つの顔を分けて考える必要があります

工場側に使うAIと、サービス業側に使うAIは、目的も評価基準も活用方法も違います。

これを混ぜて考えると、議論がスベるんですよ。

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3. AIをどこに使うか、地図を描く前提があります

もう1つ、AI活用を考える前提として、
知っておいていただきたいことがあります。

AIには、得意なことが3つあります。

  • 情報の集約と分析(大量データから要点を抽出する)
  • 思考の拡張(壁打ち、アイデアの叩き台出し)
  • 単純作業の繰り返し(OCR、転記、定型処理)

そして、会計事務所さんには、さっき申し上げた2つの顔(工場とサービス業)があります。

この「2つの顔」×「3つの得意分野」を掛け算すると、
自分の事務所のどこにAIを使うべきか、地図が描けるんですよ。

「工場側に情報の集約・分析を使う」と、異常値検出になります。
「工場側に単純作業を使う」と、OCRや自動仕訳になります。
「サービス業側に思考の拡張を使う」と、提案の切り口出しになります。

こんな具合に、業務 × AIの能力で考えると、ツール選定で迷わなくなります。

~~~

詳しくは、こちらの記事に書きました

この「2つの視点と3つのステップ」については、別記事でかなり丁寧に整理しています。

あわせて読みたい
会計事務所がAIを定着させる2つの視点と3つのステップ 先日、セミナー後の懇親会で所長先生からこう聞かれました。 「AI-OCRを入れたんだけど、結局2人しか使ってなくて……」 よく聞く話です。実は私、この手の相談をここ1年...

本記事を読み終わった後でも構いませんし、
先にこちらをご覧いただいてからでも構いません。

セットで読んでいただくと、AI活用の地図がより立体的に見えると思います。

ここからは、その前提を踏まえたうえで、
本題である「工程の三分解」に入っていきます。

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4. AIが消すのは「機械的中間工程」だけです

ここから、いよいよ本題に入っていきます。

仕事の工程って、AI時代にどう変わっていくのか。

私はこの議論を整理するために、
「中間工程」を2種類に分けて考えるようにしています。

これが、今回のブログのいちばん大事な概念整理です。

~~~

仕事には、必ず「中間工程」がついて回ります

そもそも、仕事の目的って何でしょうか。

ゴールに到達することだけですよね。

お客様の決算を完了させる。申告を済ませる。経営状況をご説明する。

こういったことがゴールになります。

ところが、ゴールに直接たどり着ける仕事って、ほとんどないんです。

事業が複雑になるほど、関係者が増えるほど、
組織が大きくなるほど、
ゴールまでの道のりに無数の中間工程が割り込んできます。

資料を集める。入力する。整理する。
確認する。共有する。承認をもらう。
引き継ぐ。記録する。

これらは、ゴールそのものではありません。

でも、ゴールにたどり着くために、
誰かが必ずやらなきゃいけない仕事。これが「中間工程」です。

~~~

中間工程には、2種類あります

ここから、概念の整理です。

中間工程には、性質の違う2種類が混ざっているんですよ。

①機械的中間工程

複雑性を、人間が処理可能なサイズに分解するための工程。

検索、入力、転記、整理、定型処理、フォーマット変換。

「人間にはできるけど、量が多いから時間がかかる」種類の仕事です。

②組織的中間工程

複数人の合意形成・責任分担・引き渡し・継続性を担保するための工程。

「誰がやったか」「誰が次にやるか」
「誰が責任を持つか」「何が止まっているか」「何を学習したか」。

これは、組織が組織であるために必要な工程です。

~~~

AIが消すのは①だけです

ここが大事なところです。

AIが圧倒的に強いのは、①機械的中間工程なんですよ。

仕訳を起こす。月次レポートを書く。定型問い合わせに返信する。
議事録を整える。試算表のコメント案を作る。資料を整形する。
データを転記する。検索する。整理する。要約する。

これらは全部、機械的中間工程です。

人間にしかできない、と思われていたから、人間がやっていたんです。

ところが、AIができるようになった瞬間に、人間がやる理由がなくなる。

これは技術の話というより、定義の話なんですね。

「人間がやるしかなかったから人間の仕事だった」ものは、
人間がやらなくてもよくなった瞬間、人間の仕事ではなくなる。

仕事の中身は変わっていないんです。誰の仕事かが変わっただけなんです。

会計事務所さんの場合、機械的中間工程に該当するものは多いです。

資料回収の催促。仕訳入力。転記。月次の数字確認。
定型レポート出力。議事録作成。メール返信。資料整形。

これらの大半は、AIで圧縮されます。

今はまだ完全ではありません。
でも、これから数年単位で、確実に減っていくと、私は見ています。

3年で半分くらい、5年でかなりの部分が、
人間がやらなくていい仕事になっていくんじゃないかな、
というのが、私の今の見方です。

具体的な数字は、AIの進化速度や、業界での導入の進み方によって、ぜんぶ変わります。

ただ、方向性として、
機械的中間工程が圧縮されていくこと自体は、もう避けられないと思っています。

~~~

でも、消えない工程があります

ここで、勘違いしてはいけないんです。

機械的中間工程は消えても、組織的中間工程は消えません

世間で「SaaSが死ぬ」「業務管理ツールはいらなくなる」みたいな話を聞きますよね。

私から正直に申し上げると、それは機械的中間工程を扱っていたSaaSの話です。

組織的中間工程を扱っているSaaSは、消えません。

むしろ、機械的中間工程が消えることで、
組織的中間工程の存在意義が逆に浮き彫りになるんですよ。

ここを混同してはいけません。

~~~

「消える」のは工程であって、業務ではない

もう1つ、覚えておいていただきたいことがあります。

消えるのは「機械的中間工程」であって、「業務」ではない、ということです。

工程は工程の話。業務は業務の話。

業務は残るんですよ。でも、業務の中身、つまり工程の構成が変わる。

「監査担当」のお仕事の中身が、5年前と、今と、3年後で全然違ってくる。

これは、業務がなくなる話ではないんです。

業務の中の「何を担うのか」が変わるという話なんです。

製造工程に純化していた職員様ほど、ご自身の役割が薄くなっていきます。

一方で、判断や関係性に比重を置いていた職員様は、相対的に役割が太くなっていく。

これが、これから3年〜5年の間に、事務所内の力学を静かに変えていきます。

~~~~

5. 「組織的中間工程」は、さらに二層に分かれます

ここから、もう一段踏み込みます。

「組織的中間工程は消えない」と申し上げました。

でも、もう少し精緻に見ていきますと、組織的中間工程の中にもさらに2つの層があるんですよ。

これを区別すると、いろんな議論がきれいに整理できます。

5-1. B1:協働調整工程

1つ目は、協働調整工程です。

複数人が同じ案件に関わるための、
引き渡し、共有、合意形成、進捗共有、属人化解消の仕組み。

「誰がどこまでやったか」
「次は誰がやるか」
「過去にこの顧客で何があったか」
「あの担当が休んだら、誰が代わりにやるか」

こういう類の工程です。

これは、組織が複数人だから発生する工程なんですよ。

1人事務所には、原理的に存在しません。

なぜなら、「複数人で動く」ことを前提とした工程だからです。

~~~

5-2. B2:責任・品質保証工程

2つ目は、責任・品質保証工程です。

誰がやろうとも必要なチェック、最終承認、異常検知、お客様への説明責任。

「税務判断が間違っていないか」
「数字に誤りがないか」
「お客様のご意向と齟齬がないか」
「過去の判断と一貫性があるか」

こういう工程ですね。

これは、主体の数に関係なく発生する工程です。

1人事務所でも、消えません。

なぜなら、「責任を負って成果物を出す」という行為そのものが、
必ずチェックを伴うからなんです。

~~~

5-3. 「1人60社」モデルが本当に消したもの

ここが、この議論で一番面白いところです。

冒頭でお話しした「1人で60社モデル」。

このモデルが実際に消したのは、
組織的中間工程のうちB1(協働調整工程)だけなんですよ。

これ、意外と気づかれていません。

~~~

考えてみてください。

1人事務所には、もともと「協働調整」が要りません。

引き渡しも、共有も、合意形成も、
属人化解消も、ぜんぶ1人で完結しているから、はじめから存在しない。

つまり、B1が「消えた」のではなくて、もともと無かったんです。

そして、AIが消したのは①機械的中間工程です。

組織的中間工程のB1は、AIが消したわけじゃないんですね。

~~~

ではB2(責任・品質保証工程)はどうでしょうか。

これは、1人事務所モデルでもしっかり残っています。

あのモデルでも、内容が不明なデビットカード、借入金の返済、社会保険、税金、給与。

これらはAIに任せず、人がチェックしている。

それは、責任・品質保証工程が、1人でも必須だからです。

~~~

だから、1人で1000社にはいきません

ここから先が、重要な含意なんですよ。

あの事例がなぜ60社で止まっているのか。

私は、こう考えています。

B2(責任・品質保証工程)が、人間に残るからです

顧客との関係性、判断責任、異常時の対応。

これは、1人の人間が抱えられる容量に上限があるんです。

機械的中間工程がいくらAIで圧縮されても、責任を負える主体は1人。

時間にも、注意力にも、リミットがある。

だから、60社が上限になる。

多少無理すれば100社はいくかもしれません。

でも、おそらく500社、1000社にはなれません。

~~~

1人60社モデルの正体

整理しなおすと、こうなります。

1人60社モデルは、「組織的中間工程をぜんぶ消した」のではないんです。

「B1が発生しない形に組織を構造化し、
B2を1人で抱えきれる容量まで圧縮した」モデルなんですよ。

これ、すごく重要な区別です。

「1人60社が成立しているなら、組織でも同じことができる」
と思って真似ると、必ず失敗します。

なぜなら、組織にはB1(協働調整工程)が必ず発生するからです。

そして、人数が増えると、B2(責任・品質保証)も増える。

この2つを管理する仕組みが、組織には絶対に必要なんですね。

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弊社クライアントの事例:1人で200件持てる理論値がありました

ここで、もう少し具体的なエピソードをお話しさせてください。

「責任・品質保証工程は、人間にしか担えない」と申し上げました。

これ、机上の理屈じゃなくて、実際に現場で起きたお話なんです。

弊社のクライアントさんで、製販分離をしっかりやられている会計事務所さんがあります。

クラウド会計100%。顧客との面談は年4回が基本プラン。

担当者さんの時間分析をしてみたんですね。

そうしましたら、1日4時間が、面談と顧客対応の時間でした。

~~~

ここで、ある所長先生がふと考えられたんですよ。

「もし、面談以外の時間をぜんぶゼロにできたら、どうなるんだろう?」

「製造工程をぜんぶ製造チームに渡して、
担当者さんは面談だけに専念したら、計算上、1人で200件持てるんじゃないか?」

これ、すごく魅力的な理論値ですよね。

1人200件。

製造をAIと製造チームに渡せば、計算上は届く数字なんです。

~~~

そこで、実際に担当者さんとも面談させていただいて、ご相談したんですよ。

「面談以外の時間を、ぜんぶゼロにできますか?」

返ってきたお答えが、ハッとさせられるものでした。

「いや、それは無理です」

なぜか。

「誰かが作った試算表だと、お客様の前で説明ができないんです」

「自分で数字を見ていないと、確認もできないし、質問に答えられない」

「お客様に対して責任を持てなくなる」

~~~

これ、本当に大事なお話だと思っています。

製販分離をして、AIを活用して、製造工程を限界まで圧縮しても、
担当者さんとしての「責任」と「説明できる理解」って、
ゼロにはできないんですよ。

試算表を作るのはAIでも、製造チームでもいい。

でも、その数字を自分の言葉で説明できるだけの理解は、
担当者さん自身に必要なんです。

「自分が責任を持てるレベルで、その顧客の数字を理解している」状態を作るための時間は、
面談以外にも必要だ、ということなんですね。

~~~

この事例、私の中で1つの結論につながりました。

製販分離しても、AIを活用しても、
担当者としての仕事には「責任」と「説明できる理解」が不可欠だということです。

これが、B2(責任・品質保証工程)が人間に残る理由を、
これ以上ないくらいに表しています。

そして、この事務所さんの結論は、こうでした。

「1人200件は理論値としては成立するけど、
現実的にはやらない。1人100件ぐらいが、責任を持って担当できる上限だろう」

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B2(責任・品質保証工程)は「担当者という単位」で発生します

この事例が教えてくれるのは、B2は「担当者という単位」で発生するということです。

製造をAIや製造チームに渡しても、
担当者が顧客に対して責任を負う以上、
その顧客の数字を「自分で理解する時間」はゼロにできません。

B2は、製造の効率化では消せないんですよ。

なぜなら、B2は「速さ」ではなく「時間」で測られる工程だからです。

理解する時間、確認する時間、自分の頭で考える時間。

ここを削ると、サービス品質が崩れます。

つまり、AIや製販分離で製造側を圧縮できても、
B2を圧縮しすぎると、サービス品質が崩れるんですよ。

ここの線引きこそが、所長先生が判断すべき領域なんです。

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B2(責任・品質保証工程)は「管理者レベル」でも発生します

ここまで、担当者レベルのB2のお話をしてきました。

ただ、実は、B2はもう一層あるんですよ。

それが、管理者レベルのB2です。

所長先生、マネージャー、部門リーダーが担う、こういう仕事のことです。

  • 品質管理:事務所全体としての品質基準、レビュー体制、異常検知、最終承認
  • 進捗管理:事務所全体の進捗、リスク管理、繁忙期の負荷分散、滞留の検知

たとえば、所長先生がふと「あの顧客、最近どうなってる?」と気にかけたり、
月末に「全体の進捗、ちょっと遅れてないか?」と感じたり。

担当者ごとの仕事を超えて、事務所全体として「大丈夫か」を判断する仕事。

これが、管理者レベルのB2なんですね。

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組織の階層は、B2のメタチェック構造です

ここで、ちょっと面白い気づきがあるんです。

組織の階層って、何のためにあるんでしょうか。

「上司」とか「マネジメント」とか言いますけど、本質を分解すると、こうなるんですよ。

  • 担当者のB2:自分の顧客の品質を担保する
  • 管理者のB2:複数の担当者のB2を担保する
  • 所長のB2:複数の管理者のB2を担保する

つまり、組織の階層って、B2の階層的なメタチェック構造だったんです。

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「メタチェック構造」とは何か——少し補足させてください

「メタチェック」という言葉、
ちょっと耳慣れないかもしれないので、補足させてください。

メタチェックとは、シンプルに言うと
「チェックする人を、さらにチェックする」という構造のことです。

「メタ」というのは、ギリシャ語で「上位の」「より高次の」を意味する言葉で、
メタチェックは文字どおり「チェックの上位にあるチェック」という意味になります。

~~~

たとえば、こんなふうに考えてみてください。

担当者さんが、お客様の試算表を作ります。

このとき、担当者さんは「数字が間違っていないか」をチェックします。

これが、1段目のチェックですね。

次に、マネージャーさんが、
「担当者さんのチェックが、ちゃんとできているか」を確認します。

これが、2段目のチェック、つまりメタチェックです。

さらに所長先生が、
「マネージャーさんが、ちゃんとチェックを管理しているか」を確認します。

これが、3段目のチェック、つまりメタのメタチェックです。

~~~

このように、チェックする立場を、さらに上の立場がチェックする仕組みが、
メタチェック構造です。

~~~

なぜ、この構造が必要なのか

「いちいち、上の立場がチェックする必要があるの?」と、思われるかもしれません。

でも、これがないと、組織として品質を担保できないんです。

担当者さん1人で完結するお仕事なら、メタチェックは要りません。

1人事務所では、
自分1人で全部見ているわけですから、
メタチェックの相手がいないんですね。

ところが、組織になると、こうなります。

「あの担当者の仕事、本当に大丈夫か?」

「あのマネージャー、ちゃんとチームを見ているか?」

これを問う人が、誰かいないといけないんですよ。

それが、組織の階層が担っている、本質的な機能なんです。

~~~

つまり、組織図とは、メタチェックの責任構造図です

ここから、組織図に対する見方が、大きく変わるんですよ。

組織図って、業務分担表に見えますよね。

でも、本質的に見ると、メタチェックの責任構造図なんです。

「誰が、誰のB2をメタチェックする責任を負うか」を、図にしたものが組織図。

階層を上がるほど、メタチェックの責任範囲が広くなります。

これに気づくと、組織が組織であることの構造的な意味が、はっきり見えてきますよね。

「うちの組織図、何のためにあるんだっけ?」というご質問に、
私は最近こうお答えするようにしているんです。

「B2を、誰がどの単位で担保するか、を決めるための構造図です」と。

組織図とは、業務分担表ではなくて、B2の責任構造図なんですよ。

~~~

AI時代に、メタチェック構造はどう変わるか

ここからが、面白いところです。

AI時代になると、メタチェック構造に、新しい層が加わります。

それが、「AIをチェックする工程」です。

担当者AIが処理した結果を、人間の担当者がメタチェックする。

担当者全員のAI活用を、マネージャーがメタチェックする。

事務所全体のAI活用を、所長先生がメタチェックする。

つまり、メタチェック構造に、
「AIを誰がチェックするか」というレイヤーが追加されるんですよ。

これが、AI時代の組織設計の難しさであり、面白さでもあるんです。

~~~

そして、これがあるからこそ、B2は組織から消えないんです。

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B2の外側にも、マネージャーの仕事があります——「C:組織維持・育成」

ここまで「責任」を中心に整理してきましたが、
もう1つ、忘れちゃいけない領域があるんです。

それが、マネージャーや所長先生が担っている「組織を維持する仕事」です。

具体的には、こういうお仕事ですね。

  • 担当者さんの退職を防ぐための1on1や声かけ
  • 育成計画の設計と実行
  • チームの心理的安全性の維持
  • 事務所文化の世代間伝達
  • リーダー候補の育成
  • モチベーションの維持
  • 採用・面接・オンボーディング

これら、B1(協働調整)でもなければ、B2(責任・品質保証)でもないんです。

責任とも、品質とも、別の機能なんです。

組織が組織として、機能し続けるための必要条件、と私は呼んでいます。

便宜上、これを「C:組織維持・育成工程」としておきますね。

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なぜCが、独立した領域なのか

「育成や1on1って、B2の一部じゃないの?」と思われるかもしれません。

でも、性質が違うんですよ。

B2は、「今、目の前にある仕事の品質を担保する」工程です。

Cは、「未来において、組織が機能し続けるための土台を作る」工程です。

時間軸が違うんですね。

B2は今、Cは未来。

そして、Cを軽視すると、こんなことが起きます。

  • 育てるべき人が育たない
  • 良い人が辞めていく
  • 文化が希薄になる
  • 残った人が疲弊する
  • 結果、B2を担える人がいなくなる

つまり、Cを怠ると、B2そのものが回らなくなるんです。

逆に言いますと、Cがあるからこそ、B2を担える人材が組織にい続けてくれる。

CはB2の土台、という関係性なんですよ。

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Cは、AIで一部支援できますが、本質は人間に残ります

AI時代に、Cはどう変わるでしょうか。

実は、Cにも「情報処理」と「判断」の二層があります。

C-情報処理

  • 担当者の業務量・負荷の可視化
  • エンゲージメント測定
  • 退職リスクの早期検知
  • 育成進度のトラッキング
  • 1on1記録の整理

これらは、AIで支援できます。

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C-判断・実行

  • 「あの担当者、少し疲れているな」と気づいて声をかける
  • 「この職員に、こんな成長機会を与えよう」と判断する
  • 退職の兆候を察知したら、本気で向き合う
  • 文化を、自分の言葉と行動で伝える
  • 心理的安全性を、日々の対話で作る

これらは、人間にしか担えません

なぜなら、Cの本質は「人と人の継続的な関係性」だからです。

~~~

マネージャーは、3つの領域を同時に担っています

ここで、マネージャーの仕事を改めて整理しますと、こうなります。

  • B1:協働調整(誰がどこまでやったか、次は誰がやるか)
  • B2:責任・品質保証(メタチェック、最終承認)
  • C:組織維持・育成(人を育て、組織を機能させ続ける)

この3つを同時に担っているのが、マネージャーや所長先生なんですよ。

そして、AIで支援できるのは、それぞれの「情報処理」と「条件型判断」の部分。

人間に残るのは、それぞれの「責任引き受け型判断」と、
Cの「人と人の継続的な関係性」の部分です。

~~~

Cが見落とされると、議論が薄くなります

正直に申し上げますと、AI時代の議論では、Cが見落とされがちなんですよ。

「AIで効率化」「AIで生産性向上」「AIで業務削減」みたいな話は、たくさん出てきます。

でも、「AIで、人の退職を防げるか?
AIで、文化を伝達できるか?
AIで、リーダーを育てられるか?」という問いは、あまり立ちません。

ここを軽視して、AIで効率化だけを進めると、組織はやがて空洞化します。

人が辞めていって、文化が消えて、誰も育っていない事務所が残るんですよ。

これ、本当にもったいないですよね。

~~~

ですから、所長先生方には、こうお伝えしたいんです。

AIで効率化することと並んで、
Cの機能を、誰が、どう担うかを、ぜひ設計してください。

これは、責任の設計と同じくらい、
AI時代の組織設計にとって大事なテーマなんです。

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6. B2には「容量上限」があります——だから階層が必要

ここから、もう一段深い話に入ります。

B2(責任・品質保証工程)には、決定的な性質があります。

それは、B2には「容量上限」があるということです。

200件事例で見えたのは、担当者のB2の容量上限でした。

ただ、実は、管理者のB2にも、所長先生のB2にも、それぞれ容量上限があるんですよ。

ここを整理すると、組織の難しさが構造的に見えてきます。

6-1. 担当者のB2の容量上限

1人の担当者さんが、責任を持って顧客対応できる件数。

これは事務所さんによって幅がありますが、
私が見てきた範囲では、だいたい100件あたりが上限だと感じています。

もちろん、これは私の肌感覚の話で、
もっと多く持てる優秀な担当者さんもいらっしゃいます。

ただ、組織として運用する場合、
安定的に品質を担保できるのは、
これくらいの件数までかな、と思っています。

それ以上だと、「自分で理解する時間」が確保できなくなって、品質が崩れます。

クラウド会計をフル活用しても、
AIを使い込んでも、ここの壁を急に突破するのは難しいんですよ。

なぜなら、B2は時間で測られる工程だからです。

~~~

6-2. 管理者のB2の容量上限

マネージャー1人が、責任を持って見られる担当者の数。

これも、一般的なマネジメント論や、
私が見てきた事務所さんの状況を踏まえますと、
だいたい7〜10人あたりが現実的な上限になりやすい印象です。

なぜでしょうか。

管理者は、各担当者のB2を「メタチェック」する立場ですよね。

つまり、各担当者の仕事の品質、進捗、リスクを把握し続ける必要がある。

人数が増えると、「誰が何をやっているか」が見えなくなってきて、
メタチェックの精度が落ちます。

ですから、7〜10人くらいが現実的な上限になりやすいんですね。

~~~

6-3. 所長先生のB2の容量上限

そして、所長先生が直接見られる管理者の数。

これは、経営判断、組織方針、外部対応も含めて全部やるとなると、
だいたい3〜5人くらいが限界だと、私は感じています。

もちろん、これも事務所さんによって差があります。

ただ、所長先生が「自分でちゃんと把握できている」と思える範囲は、
これくらいかな、というのが、私の肌感覚です。

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6-4. ここから、「100人組織が難しい」理由が見えます

ここまでの数字を組み合わせると、所長先生1人で直接見られる組織の規模が、計算できます。

  • 担当者1人 × 100件 → 個人プレー
  • マネージャー1人 × 担当者10人 × 100件 → 1000件規模
  • 所長1人 × マネージャー5人 × 担当者10人 → 50人規模

つまり、所長先生が直接ガバナンスを効かせられるのは、30〜50人の組織までなんですよ。

これを超えると、所長先生とマネージャーの間に、もう1階層必要になります。

部長層、本部長層、副所長層、いろんな呼び方がありますが、要は中間階層が要る。

ところが、この中間階層を任せられる人材が、業界全体に少ないんですよ。

これが、業界で100人組織がほとんど成立しない構造的理由だと、私は考えています。

知っている限りの組織で、100人規模をスイスイ回せている事務所さんが、指で数えるほどしかない。

その理由は、「経営努力が足りない」とか「採用が下手」とかじゃないんですね。

B2の容量上限という構造制約に、業界全体が縛られているんです。

これに気づくと、「100人で詰まる」のは経営者の能力不足ではなく、構造の問題だと見えてきます。

そして、構造の問題なら、構造で解くしかないんですよ。

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6-5. AIで「判断」はどこまで担えるか——B2をさらに分解する

ここから、もう一段深い話に入ります。

B2の容量上限を引き上げるには、B2をもっと細かく分解する必要があるんですよ。

実は、B2の中には、性質の違う3層が混ざっているんです。

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B2-情報処理:データ集約、傾向分析、異常検知のアラート、品質指標の集計、滞留の可視化。

これは、AIで代替できます。

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B2-判断a:条件型判断

規則、経験則、条件で結論が出る判断です。

例を挙げますと、こういうものですね。

  • この支出は、雑損失か交際費か
  • この数字は、前期比で異常か
  • この申告は、期日に間に合うか
  • このAI出力は、品質基準を満たすか

「条件を当てはめれば結論が出る」種類の判断です。

これも、AIで代替できます

ベテラン税理士先生の頭の中にある経験則の塊。

これは、判断軸を言語化していけば、AIに渡せる部分なんですよ。

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B2-判断b:責任引き受け型判断

一方、こちらは、まったく性質が違います。

「結論の正しさ」よりも、「誰がその結論を引き受けるか」が本質になる判断です。

例を挙げますね。

  • 税務調査で、こう答えるべきかどうか
  • 顧客に「やめておいたほうがいい」と言うか
  • 担当者の異常な勤怠に、声をかけるか
  • AIが「大丈夫」と言った結果を、最終承認するか

これらは、結論を出すだけでは終わらないんですよ。

結論を自分のものとして引き受けることが、本質。

これは、AIには担えません。

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6-6. つまり、B2の整理はこうなります

B2を改めて細分化すると、こういう構造になります。

  • B2-情報処理 → AIで代替可能
  • B2-判断a:条件型判断 → AIで代替可能
  • B2-判断b:責任引き受け型判断 → 人間に残る

つまり、AIで代替できる部分が、思った以上に大きいんですよ。

正直、私もこの整理をしてみて、「あ、こんなに広いんだ」と気づきました。

逆に言いますと、人間に残るのは、判断bだけになっていくんです。

ここに、AI時代の本質があると、私は思っています。

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そして、AIがB2-情報処理とB2-判断aを担えるようになると、
管理者の容量上限が引き上げられる可能性が出てきます。

たとえば、こんな未来です。

  • AIが毎朝、各担当者の進捗を集約してマネージャーに提示する
  • AIが「この顧客、滞留が起きそうです」と異常検知してくれる
  • AIが「この支出、勘定科目はこちらが妥当です」と提案してくれる
  • AIが「担当者Aさんの仕事量が過剰です、再配分が必要そうです」と通知してくれる

これらを、AIが整理してくれる。

その上で、マネージャーはB2-判断bだけに集中する。

そうしますと、マネージャー1人が見られる担当者の数は、
7〜10人から、15人、20人へと広がる可能性があります。

同じく、所長先生が見られる管理者の数も、
3〜5人から、7〜10人へ広がる可能性があります。

つまり、AIが入ることで、組織が「より大きく」回せるようになる可能性があるんですね。

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6-7. マルチエージェントでも、最終点には人間が残ります

ここで、最近の技術トレンドにも触れておきたいんですよ。

最近、AI界隈で「マルチエージェント」というアーキテクチャが進化しています。

簡単に言いますと、複数のAIが連携して仕事をする仕組みです。

担当者AIが仕訳を起こす。
マネージャーAIがそれをチェックする。
所長AIが最終承認する。

技術的には、もうこれが可能なんですよ。

「だったら、B2もぜんぶAIで完結するんじゃないか?」

確かに、そう思いたくなりますよね。

私も最初、ここを真剣に考えました。

ただ、ここで根本的な問いが立つんです。

~~~

「その上位AIが間違えたら、誰がチェックしますか?」

階層を100段重ねても、いつかどこかで、こう聞かれるんですよ。

「このAIシステム全体を、信頼するんですね?」と。

その問いに「はい」と答える主体が、必要なんです。

そして、その「はい」と答える主体は、人間にしかなれない

これは、技術の問題ではないんですよ。

再帰的チェック構造の最終点の問題なんです。

無限に上位AIを積み上げても、
最後には「このシステムを採用し、結果に責任を負う」という意思決定が残ります。

これが、責任の本質なんですよ。

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マルチエージェントは、本当にすごい技術です。

B2-情報処理とB2-判断aを、大幅に効率化してくれます。

でも、B2-判断bを消すことは、できないんですよ。

ここを混同してはいけません。

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6-8. 「責任」とは何か——AIには原理的に担えない4つの理由

ここで、もう一段深く掘ってみます。

「責任」って、そもそも何なんでしょうか。

AIがどれだけ高度になっても、なぜ責任を負えないのか。

これ、性能の問題ではなくて、構造的な問題なんですよ。

私の理解では、AIには、こういう要素が原理的に欠けています。

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理由1:痛みを感じる能力がない

責任を負うって、失敗のダメージを引き受けることなんですよ。

人間は、失敗するとつらい。眠れない。後悔する。

そのつらさが、次の判断を慎重にさせます。

AIには、これがないんです。

「AIが申し訳ない気持ちです」と出力されても、
それは文字列であって、感情ではないんですよ。

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理由2:謝罪に意味がない

お客様に「申し訳ありませんでした」と謝るとき、何が起きているでしょうか。

人間が謝るとき、そこには「自分の過失を引き受ける」というメッセージが乗っています。

それが、相手の信頼を回復する力になるんですよ。

AIが「申し訳ありませんでした」と出力しても、引き受ける主体がない。

ですから、謝罪に意味がないんですね。

「謝るのはAIですか?」と聞かれたら、答えに詰まりますよね。

そうじゃないんです。謝るのは、税理士先生です。

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理由3:法的責任の主体になれない

税理士法も、民法も、AIを責任主体として認めていません。

税務署からのお問い合わせに対応するのも、税理士法上の責任を負うのも、税理士先生です。

AIエージェント1000体がチェックしても、最終的に責任を負うのは、人間。

「AIが間違いました、責任はAIにあります」という言い訳は、法的には通らないんですよ。

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理由4:改善を約束する権限がない

「再発防止策を実行します」と言うのは、未来の自分に対する約束です。

人間は、その約束を実行する権限と動機を持っています。

AIには、これがないんですよ。

AIに「改善しますか?」と聞いて「はい」と答えても、それは現在のセッションの文字列。

来週、別のセッションで動くAIに、その約束は引き継がれません。

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つまり、「責任」とは「痛みを引き受ける主体性」のことです

この4つの理由を統合すると、こう言えるんですよ。

「責任」とは、痛みを引き受ける主体性のことです

そして、その主体性は、人間にしかありません

これは、技術が進化しても、変わらない部分なんですね。

ですから、組織からB2-判断bが消えることは、永遠にありません。

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6-9. だから、AI時代の経営者の仕事は「責任の設計」になります

ここまで来ますと、AI時代の経営者のお仕事が、はっきり見えてきます。

機械的中間工程は、AIに任せる。

B-情報処理も、AIに任せる。

B-判断aも、AIに任せる。

すると、経営者の仕事として残るのは、何でしょうか。

それは、「責任の設計」なんですよ。

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「責任の設計」って、具体的に何でしょうか

こういう問いに、答えていくお仕事です。

  • AIで判断した結果に対して、誰が責任を負うかを、どうログに残すか
  • AIの誤判断による損害を、誰がどこまでカバーするかを、どう決めるか
  • AI判断の信頼性を、誰が定期的に検証するかを、どう設計するか
  • AIが「大丈夫です」と言ったとき、それを信じる根拠を、誰がどう作るか
  • 万が一の問題が起きたとき、誰が表に出て対応するかを、どう決めるか

これらは全部、責任の設計なんです。

そして、これは技術じゃ解けないんですよ。

経営判断と組織設計でしか解けない。

~~~

組織とは「責任を引き受けるシステム」です

ここで、もう一度、立ち止まって考えていただきたいんです。

組織って、何のためにあるんでしょうか。

業務分担表のため? 効率化のため?

私は、こう考えています。

組織とは、「責任を引き受けるためのシステム」です。

組織図とは、業務分担図ではなくて、責任を誰がどの単位で引き受けるかの構造図

階層とは、責任のメタチェック構造。

人材育成とは、責任を引き受けられる人を育てる活動。

評価制度とは、責任の引き受け方を測る仕組み。

ぜんぶ、責任の設計の一部なんですよ。

そして、AIは、その「責任を引き受けるシステム」の中で動く道具です。

道具の精度がどれだけ上がっても、
システムの目的(責任の引き受け)は変わらないんですね。

ここを見誤らないでください。

~~~

所長先生のお仕事は、ここに純化していきます

ですから、これからの所長先生のお仕事は、こう変わっていきます。

  • 機械的中間工程の最終チェック → AIに任せる
  • サービス業側の最重要担当 → 一部AIで支援、本質は残る
  • 組織のマネージャー → ますます重要に
  • 責任の設計者 → 一番大事なお仕事になる

「うちの事務所は、どんな責任を引き受ける組織なのか?」

「お客様に対して、職員様に対して、社会に対して、何を約束し、何を守るのか?」

「AIに任せた判断の結果を、誰がどう引き受ける仕組みにするのか?」

これらの問いに、所長先生がご自身で答えを出していかれる。

これが、AI時代の本当の経営者のお仕事なんですよ。

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7. AI時代に、組織的中間工程は「形が変わります」

「組織的中間工程は消えない」と書きました。

ただし、形は変わるんですよ。

ここを見落とすと、所長先生方がAI時代に苦労されることになります。

B1(協働調整工程)も、B2(責任・品質保証工程)も、AI時代用に進化していくんです。

順番に見ていきます。

7-1. B2の進化:メタチェック工程

責任・品質保証工程の中で、新しく生まれた仕事があります。

それがメタチェック工程です。

AIが出した結果を、誰がどうチェックするか。

AIがハルシネーションしていないか。AIが見落としていないか。
AIが古いデータで判断していないか。AIが間違って学習していないか。

「AIが正しく動いていることを担保する」工程が、新しく必要になってくるんですね。

これって、従来の「人間の作業を人間がチェックする」とは性質が違うんですよ。

人間は、慣れている領域では精度が高くて、慣れていない領域では精度が低い。

AIは、訓練データに含まれている領域では精度が高くて、
含まれていない領域で自信を持って間違えるんです。

ここが厄介なんですよ。

さっきの議事録の話みたいに、
人間が議事録を取っていたら絶対に起きないミスが、AIだと普通に起きる。

ですから、
人間がやっていた頃のチェック観点では、AIのミスを検出できないんです。

AI時代のチェックは、観点ごと作り直さなきゃいけません。

~~~

7-2. B2の進化:責任所在の確定工程

もう1つ、B2側で新しく生まれた工程があります。

責任所在の確定工程です。

AIが処理した結果について、責任の所在をどう確定するか。

AIが起票して、AIがチェックして、
人間が承認した結果に間違いがあったとき、誰の責任ですか?

承認した担当者ですか? AIを選定した経営者ですか?
AIを学習させた誰かですか? ベンダーですか?

これを事前に決めて、ログに残しておく工程が要るんですよ。

会計事務所さんの場合、
税務署や顧客に対する責任は、最終的に税理士先生が負われます。

これはAI時代でも変わりません。

ですから、「AIが何を判断したか」「人間がどこで承認したか」というログが
残っていなければならないんですね。

AI処理の結果を一元的に記録して、いつでも遡れる状態にしておく。

これは、従来の業務には存在しなかった工程です。

~~~

7-3. B1の進化:AI活用状況の可視化工程

ここからは、B1(協働調整工程)側の進化です。

組織内で、誰がどのAIをどう使っているか。

これを把握する工程が、新しく必要になります。

同じ業務を、担当者AはAI Xで処理して、担当者BはAI Yで処理する。

出力のフォーマットも品質基準もバラバラ、ということが普通に起きるんですよ。

同じ事務所の中で、AI活用の方針が暗黙のうちに分岐していく。

これって、新しい属人化なんですよね。

「あの人のやり方」が「あの人のAIのやり方」になっただけで、構造は変わっていないんです。

むしろ、AIが入ったことで属人化が見えにくくなる、ということが起きます。

なぜなら、ご本人もAIに任せている部分の処理ロジックを、完全には把握していないんですよ。

ちょっと怖いですよね。

事務所として「うちはこのAIで、このやり方で、この基準で処理する」
というルールを作って守る、という工程が新しく要ります。

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7-4. B1の進化:AIノウハウの組織資産化工程

もう1つ、B1側で新しく生まれた工程。

職員様が、個人のセンスでAIに教え込んだプロンプトやワークフローを、組織資産として残す工程です。

その方が辞められたとき、AIノウハウも一緒に消える、というのが新しいリスクなんです。

属人化したExcelマクロが退職とともに使えなくなるのと同じ現象が、AIで起きます。

しかも、AIプロンプトはマクロより属人性が高いんですね。

ご本人の言葉遣い、暗黙の前提、判断の癖が、織り込まれている。

これを組織として保存・継承していく仕組みが要ります。

プロンプトライブラリ。AI処理のテンプレート。AI活用ガイドライン。

これらは、従来の業務マニュアルには載っていない種類の文書なんですよ。

新しい仕事ですよね、これも。

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7-5. すべては「ブラックボックス化への対処」です

ここまで挙げた4つの新しい工程、共通点があるんです。

それは「ブラックボックス化への対処」なんですよ。

各工程の効率化が進むほど、工程全体が見えなくなる。

複数のAIツールが個別に動くと、どの案件がどこで止まっていて、
何の問題が発生しているかが、どんどん分かりにくくなるんですね。

工場で考えると、わかりやすいかもしれません。

最新のコピー機を入れました。たくさん印刷できるようになりました。

でも、印刷をみんなが勝手に走らせて、いつ印刷したか、誰のものか、共有しなかったら?

印刷物が脇に積まれて、誰のかわからなくなりますよね。

普通の工場なら、ベルトコンベアでエラーが起きたところでセンサーが反応して、ベルトが止まります。

誰でも、問題が起きた場所がわかるわけです。

でも、AIで自動化された業務は、どこで止まっているか、AIが止めているのか、人が止めているのか、わからなくなるんですよ。

1人事務所なら、ぜんぶ自分で見ているからわかります。

5人以上の事務所では、わからなくなるんです。

ですから、工程の一元化と司令塔が必要になります。

AIが手足として動くなら、全体を管理する司令塔が要る。

AIが自動判断する部分と、人が判断する部分の線引きを、誰が引くのか。

処理結果を、誰がどう一元管理するのか。

これが、AI時代に組織的中間工程が進化した姿の本質なんですよ。

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8. 「動的に分担」自体が、組織管理なんです

ここで、世間でよく言われる議論に、私なりに反論しておきたいんです。

AIの未来を語る人がよく、こう言いますよね。

「これからは、人間とAIとロボットが、その場で動的に分担する時代だ」

「ソフトウェアは買ってくるんじゃなく、目的ごとにその場で生成される」

「目的を伝える一行で、仕事が終わる」

聞いていて、ワクワクする話なんですよ。私も嫌いじゃないです。

ただ、ですね。

ここに、決定的な見落としがあるんです。

~~~

「動的に分担する」って、誰が分担を管理するんですか

考えてみてください。

「人間・AI・ロボットがその場で動的に分担する」。

このとき、誰が「分担」を管理しているんですか?

誰が何を持っているか。
誰に渡すか。
止まっているのは誰か。
完了したのは誰か。
品質はどうだったか。

これを束ねる装置が、絶対に必要なんですよ。

つまり、「動的に分担すること」自体が、組織管理という行為なんです。

「動的に分担すれば、組織管理が要らなくなる」のではなくて、
「動的に分担するからこそ、新しい組織管理が必要になる」んですね。

ここを取り違えると、議論が成立しません。

~~~

「目的を伝える一行で終わる」のは、1人事務所だけです

もう1つ、有名な議論にも触れておきます。

「これからは、目的を伝える一行で仕事が終わる」

私から正直に申し上げると、それは1人で完結する仕事だけなんですよ。

所長先生1人の会計事務所なら、
所長先生がAIに目的を伝えれば、仕事は進むかもしれません。

でも、10名の事務所で所長先生が「顧客Xの決算を進めて」と一行投げても、
事務所は動かないんですよ。

誰がやるか。
いつまでにやるか。
誰がレビューするか。
過去の経緯はどうだったか。
顧客との関係性は誰が持っているか。

これらが、組織の中に分散して存在しているからです。

組織は、組織として動くために、
目的の翻訳と分配と統合の仕組みを必ず必要とします。

「一行で終わる」のは、
目的の翻訳と分配と統合がすべて1人の頭の中で完結する場合だけなんです。

~~~

最先端の事務所さんほど、業務管理ツールを手放しません

ここで、私が現場で見ている事実を1つお伝えします。

これ、けっこう驚かれることが多いんですけれども。

最もAIを使いこなしている事務所さんほど、業務管理ツールを使い続けているんですよ。

AI活用において業界の先頭にいる方々が、
AIで個人の生産性を圧倒的に上げた結果、何が起きたかと言いますと。

組織として「誰のAIが何をしたか」「全体として何が起きているか」を把握する必要性が、
むしろ高まったんです。

AIが速くなるほど、組織レイヤーで起きていることの可視化が追いつかなくなるからなんですね。

つまり、AIが進化すればするほど、
組織管理レイヤーの価値が下がるんじゃなくて、上がるんです。

これ、直感に反するかもしれませんが、現場で起きている事実です。

~~~~

9. 「個人で全工程AI」と「組織で各工程AI」は、別の話です

ここで、最初に申し上げた話に戻ります。

冒頭の「1人で60社」モデルの話と関連します。

私の中で、AI活用には2つのパターンがある、と整理しています。

Aパターン:個人で全工程をAIにやらせる

これは、1人事務所モデルです。

所長先生1人で、判断も処理もぜんぶ抱える。

その上で、AIに仕訳から議事録から請求まで、全工程を任せる。

このパターンは、よほど技術と経営センスが揃った先生にしか、そもそも成立しません。

そして、成立したとしても、組織にそのまま展開できないんです。

Bパターン:組織で各工程にAIを使う

これは、5人以上の事務所での正しい方向性です。

業務を分解して、工程ごとに「ここはAI、ここは人」と線引きをする。

その上で、AI処理の結果を組織として品質担保する。

このBパターンを目指すべきなのが、組織化された会計事務所さんなんですよ。

~~~

Aパターンは、組織には持ち込めません

Aパターンの何が成立するのか、分解してみますね。

第一に、確認者がご本人1人です。

AIが処理した結果を、その先生が見て、判断する。

「誰が承認したか」「誰が責任を持つか」という問いが、そもそも発生しないんですね。

ぜんぶ自分。

第二に、マニュアルがご本人の頭の中と一致している

AIに渡しているルールファイルの中身は、その先生個人の判断基準そのもの。

だから、AIが意図通りに動くんです。

第三に、例外処理をご自身で巻き取れる

AIが詰まったり、変な結果を出したりしたら、ご自身で対処する。

職員様がいないから、誰かに依頼する必要がないんですね。

この3つが揃っている状態は、1人事務所か、
所長先生が完全にコントロールしているチームでしか成立しません。

~~~

5人になった瞬間、すべてが壊れます

5人体制になった瞬間に、このAパターンは壊れるんですよ。

職員様それぞれのAI設定が、バラバラになる可能性がある。

担当者Aは「丁寧に書いてください」とプロンプトに入れる。

担当者Bは「簡潔に書いてください」と入れる。

結果、出力の品質基準が事務所内でバラバラになる。

除外案件の振り分けが不在になります。

「誰が、どの顧客のAI処理を確認するか」が決まっていない。

月末になって所長先生が「あの会社のAI処理、誰がチェックした?」と聞いて、
誰も手を挙げない、ということが起きるんですよ。

承認の責任が不明になります。

AIが処理した結果に対して、誰がいつ承認したかが記録されない。

後から問題が出たとき、誰の判断だったかわからない。

メンテナンス責任が宙に浮きます。

AI処理の仕組みを作った職員様が辞められたとき、誰がそれを引き継ぐのか。

プロンプトの中身を理解できる人がいなくなって、エラーが起きても直せない。

これらは、スプレッドシートやNotionで自作すれば、技術的には解決できます。

でも、自作したものを職員様が辞められたら使えなくなるリスクは消えません。

~~~

AIは属人化を解消しません。むしろ加速させます

ここ、声を大にして申し上げたいんですよ。

「AIで属人化が解消される」というのは、ハッキリ申し上げて誤解です。

AIは属人化を解消しません。むしろ、放置すれば加速させます

なぜなら、AIに任せた部分はご本人にしか見えなくなるからなんです。

「AIが処理しました」の中身を、他のメンバーが追えない。

ご本人すら、AIの判断ロジックを完全には把握していない。

組織として運用するためには、AIを入れる前に業務管理の型を作る必要があります。

AIの処理結果を受け取って、組織として品質を担保する仕組み。

AI処理後のレビュー記録を一元管理して、
進捗を可視化して、エスカレーションのルールを定義する。

これがないと、AIを入れれば入れるほど、属人化が深まるんですよ。

これ、本当にもったいないですよね。

AIで業務を楽にしたかったはずなのに、
気がつくと管理が増えている、という事態になります。

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10. 規模で変わる、AI活用の戦略

ここで、もう一段深く踏み込みたいんです。

事務所の規模によって、AI活用の戦略がまったく違います

これを意識せずに他事務所さんの事例を真似ると、ほぼ確実に失敗します。

私がたくさんの事務所さんをご支援する中で見てきた肌感覚で、規模別に整理してみますね。

10-1. 5人以下の事務所

ここは、ぶっちゃけ、所長先生のセンス次第で何でもできる規模です。

Aパターンの「個人で全工程AI」も、頑張れば成立し得ます。

ただ、ここで気をつけたいのは、「5人事務所のままでいい」のか
「20人、30人に成長したい」のか、で戦略が変わることなんです。

5人のままなら、所長先生がガリガリAIを使い込んで、
顧問件数を増やしていく、というスタイルでもOKです。

ただ、20人、30人に成長したいのであれば、
5人のうちから業務管理の型を作っておくほうが圧倒的に楽です。

なぜかと言いますと、20人になってから型を作ろうとすると、
既存の属人化を解きほぐすところから始めなきゃいけないからなんですね。

これ、本当に大変なんですよ。

5人のうちから、業務管理ツールを入れて、工程を可視化して、それからAIを差し込んでいく。

この順番だと、組織が大きくなったときにスムーズに伸びていけます。

~~~

10-2. 10人〜30人の事務所

ここがですね、たぶん一番悩ましい規模なんですよ。

業務管理が回らなくなり始めるボリュームゾーンです。

ここでよくあるご相談が、「気合いで回してきたけど、そろそろ限界です」というものです。

所長先生が全顧問先を頭の中で把握できなくなる。

「あの会社、どこまで進んでた?」と聞かなきゃわからない。

特定の職員様に仕事が偏って、その方が休まれると現場が止まる。

繁忙期に「あれ、これ誰がやるんだっけ?」という会話が連発する。

こういう状況になったときに、
「とりあえずAIを入れれば楽になるかな」と考えるのは、順番が違うんですよ

このフェーズで必要なのは、
まず製販分離の検討と、工程の見える化なんです。

製造工程をどう切り出すか。
誰がどの工程を担うか。リードタイムをどう管理するか。

ここを整える前にAIを入れると、
「とりあえずAIで効率化したつもり」になるんですけど、
気がつくと管理だけが増えていて、何も楽になっていない、という結果になります。

これ、本当にあるあるなんですよ。

~~~

10-3. 50人〜100人の事務所

ここからは、構造的な難易度がガラッと上がります。

50人を超えたあたりから、マネジメントの難易度が一気に跳ね上がるんですね。

何が変わるかと言いますと、部門リーダーの数と質が追いつかなくなるんですよ。

30人ぐらいまでなら、部門リーダー3人ぐらいで回せるんです。

でも、50人〜100人だと、部門リーダー10人ぐらい要るんですね。

そして、「10人をマネジメントできる人」って、
正直、業界全体を見渡してもそんなにたくさんいないんですよ。

ここで詰まる事務所さんが、本当に多いんです。

加えて、50人を超えると外部の法的要件も厳しくなる

労務管理、安全衛生、個人情報管理、コンプライアンスのチェック。

50人で利益が飛んでいく、ということも起きます。

ですから、このフェーズの事務所さんがAI導入を考える前に向き合うべきは、
マネジメント層の育成とリーダーの分業設計なんですよ。

ここを抜きにしてAIだけを入れても、ブラックボックス化が深まって、
所長先生がさらに見えなくなるだけです。

これ、本当に切実な話なんです。

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10-4. 100人を超える事務所

ここまで来ると、業界全体を見渡しても、本当に成功事例が少ない領域です。

知っている限りの組織で、
100人規模を「スイスイ回せている」事務所さんは、
指で数えるほどしかないんです。

多くの事務所さんが、100人で詰まります。

ここで詰まる理由って、シンプルに言うとガバナンスなんですね。

100人いると、所長先生が直接見ることが物理的に不可能になります。

ですから、ミドル層に権限を委譲して、ミドル層がきちんと回す、という構造が必要になる。

ところが、ミドル層に権限が正しく委譲されていないと、
表向きは大きいけど中身は破綻している、という事態になります。

このフェーズでAIの議論をするのは、順番として最後です。

まず、組織のガバナンスを作り直すこと。

そのうえで、製販分離を徹底すること。

その先に、ようやく「AI活用の組織設計」という議論が成立します。

ここを飛ばして「AIで一気に効率化」と言っても、組織のほうがついてこないんですよ。

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10-5. つまり、戦略は規模で違います

ここまで整理すると、お伝えしたいことがシンプルに見えてくると思います。

規模ごとに、向き合うべき問いが違います。

  • 5人以下:先を見据えて型を準備する
  • 10〜30人:見える化と製販分離の検討
  • 50〜100人:マネジメント層の育成
  • 100人超:ガバナンスの再設計

AIの議論は、それぞれのフェーズの「整った先」に乗っかる話なんですよ。

順番を間違えると、本当にもったいない結果になります。

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11. 属人化の正体は、業務設計の曖昧さです

ここで、属人化そのものを深掘りさせてください。

属人化、と聞きますと、「あの人にしかできない仕事がある」
「特定の担当者が辞めたら困る」というイメージが浮かびますよね。

でも、その正体は別のところにあるんですよ。

属人化の正体は、業務設計の曖昧さなんです

業務設計が曖昧な現場では、こういうことが起きています。

資料回収のルールが、顧客ごとに違う。

しかも、それがどこにも書かれていない。担当者の頭の中にしかない。

納期や優先順位の認識が、人によってずれている。

本来、資料回収を先にやるべきなのに、なぜか後回しになっている。

チェックの仕事は納期に余裕があるから、そっちを先にやっている。

平準化が不足していて、3月決算5月申告の月だけが地獄になっている。

これらって、「担当者の方が悪い」わけじゃないんですよ。

業務の設計と運用ルールが定義されていないだけなんです。

私はここを、強く強く申し上げたいんですね。

人を責めても、何も解決しません。構造を整えれば、人は自然に動きます。

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「うちは決算3月の仕事、もう取らないんです」

弊社のクライアントの場合、決算月ごとに受注枠を事前に決めているんですよ。

「この月は、もう取らない」と決めて営業しているんです。

なんなら、お客様にご提案して、決算月を変更していただいたりもするんですね。

なぜそれができるかと言いますと、
1人あたりの申告件数の上限が決まっているからなんです。

「1人4件以下」と決めていれば、
その枠を超えた時点で「次の決算月でいかがでしょうか」とお客様にご提案できる。

これが「型がある状態」なんですよ。

逆に、型がない状態だと、3月決算5月申告のリクエストが来たら、全部受けてしまう。

結果、5月が炎上する。

「これは仕方ない」と諦めて、毎年同じことを繰り返す。

これ、本当にもったいない話ですよね。

属人化を解決するには、属人性を排除するんじゃなくて、業務設計を整えるほうが早いんです。

手順を見えるようにして、チームで運用できる形にする。

そうすれば、誰がやっても同じ品質で、同じスピードで仕事が回るようになります。

そして、業務設計が整っていれば、その工程の一部にAIを入れることができるようになる。

これが、「型を作ってからAIを入れる」の意味なんですよ。

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12. 業務設計の7ステップ

具体的な業務設計の手順を、書かせてください。

AIを入れる前に整えるべき「型」の中身です。

弊社では、ご支援するときにだいたいこの7ステップで進めています。

ステップ1:標準業務の定義

誰がどの業務を、どの範囲で提供するか。

記帳代行の範囲。月次顧問の範囲。決算の範囲。

これを共通言語化します。

事務所内で「記帳代行」と言ったときに、人によって違うイメージにならない、という状態を作るんですね。

これ、意外とできていない事務所さんが多いんですよ。

ステップ2:工程の分解

資料回収、入力、チェック、顧問先回答待ち、試算表提出、資料返却。

1つの業務を、複数の工程に分解します。

弊社でご支援している70社ほどの事務所さんで、工程が「まったく同じ」事務所は、1つもないんですよ。

事務所の規模、クラウド会計の導入率、組織体制によって、工程は変わります。

同じ事務所さんでも、記帳代行プランと自計化プランで工程が違います。

ですから、自社の工程は自社で書き出す必要があるんですね。

ステップ3:担当と役割の明確化

各工程を、誰が担当するか。

個人で担当する場合もあれば、製造チームが担当する場合もある。

タイミーさんやアルバイトの方にお任せする工程もある。

ここで重要なのは、「担当者の役割」と「工程の担当」を紐付けることなんですよ。

監査担当の役割が「資料を適切に回収する」なら、資料回収は監査担当のお仕事。

「記帳チームが資料回収まで担う」と決めるなら、資料回収は記帳チームのお仕事。

これは組織の成熟度や規模で変わりますし、
来月以降、新しい工程で管理しますというのが平気で発生するのが、
会計事務所さんの特徴です。

そのへんが柔軟性なんですよね。

ステップ4:期限のルール設定

各工程に、「いつまでに」のルールを設けます。

繁忙期に資料がたまったり、入力が滞ったりしないように、前倒しで管理するんですね。

これ、ルールがないと、だらだら後ろに倒れます。

ステップ5:進捗の可視化

誰でもすぐに、各工程の進捗を把握できる状態にする。

これが、業務管理ツールの役割です。

属人化を防ぐ最大の武器が、ここにあります。

ステップ6:例外ルールの整備

現場で運用が始まると、必ず例外が出てきます。

「この顧客、どうしましょう?」「この工程、どうしますか?」

これを毎回その場で判断するのではなく、例外ルールとして整備しておく。

これがあると、現場の判断速度が格段に上がります。

ステップ7:改善ループ

運用してみると、工程が多すぎるとか、少なすぎるとか、
追加したいとか、削減したいとか、いろいろ出てきます。

これを定期的に振り返って、改善する。

この7ステップは、言ってみれば製造工場を立ち上げる作業に近いんですね。

会計事務所さんの「工場」側を、ちゃんと製造工場として設計するということです。

ここまで設計できれば、各工程に対して
「ここをAIに任せられるか」「ここに人の判断が必要か」を考えることができるようになります。

設計がないと、AIを入れる場所が決まらないんですよ。

だから、入れても定着しないんです。

「AIで業務改善」と言ったときに、改善するのはAIじゃないんですよ。

業務設計が改善されるんです。

AIは、業務設計が整った後で、特定の工程に対して入る。

逆順だと、必ず失敗します。

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13. 製販分離とAI、そして「中途半端な製販分離」のワナ

業務設計の話の延長で、もう1つ、ぜひ触れておきたいテーマがあります。

製販分離です。

製販分離って、会計事務所さんの業務を「製造」と「販売」に分けて、
別の役割として組織化する考え方ですよね。

製造は、記帳や申告作業など工場側のお仕事。

販売は、提案や面談、税務相談などサービス業側のお仕事。

それぞれを別チームで担います。

なぜこの話をAIと絡めるかと言いますと、
AIで機械的中間工程が圧縮されると、製販分離の構造そのものが変わるからなんですよ。

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製販分離は、AI時代の「インフラ」になります

従来の製販分離の議論では、
「製造と販売を分けることで、それぞれが得意分野に集中できる」というのが、大きなメリットでした。

製造は再現性とスピード。販売は顧客との関係性とコンサルティング能力。

それぞれ別のスキルセットが求められますよね。

AIで製造工程が圧縮されると、製造側の人員配置の意味が変わってくるんです。

今までは「製造を10人でやっていた」が、
「製造を2人でやって、残り8人はAI処理のメタチェックと販売側に振り分ける」になっていく可能性があります。

製造チーム自体の役割が、「作業をする人」から
「AI処理のメタチェックと例外対応をする人」に変わっていくんですね。

そして、ここが大事なんですが、製造工程をAIで回すには、
製造を独立チームとして組織化していたほうが、圧倒的にやりやすいんですよ。

なぜなら、製造のルール、判断基準、品質基準が1箇所にまとまっているからです。

バラバラの担当者が個別にAIを使っている状態より、
製造チームが統一ルールでAIを運用するほうが、品質も生産性も上がります。

これからの製販分離は、
AIを組織として使うためのインフラ整備
として捉え直していいと思っています。

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でも、中途半端な製販分離には、ワナがあります

ただし、ですね。

ここからが大事なんですけれども、
中途半端な製販分離には、強烈なワナがあります

私がよく見るのが、「チーム内で製造と監査を1ユニットにしている」事務所さんです。

つまり、製造チームを組織として独立させずに、
チーム内に製造担当と監査担当を抱える形にする。

一見、製販分離っぽく見えます。
「うちは分けてます」と言いやすい。

でも、これだとリーダーが育たないんです

なぜでしょうか。

このやり方だと、チームリーダーの方が、
製造管理から監査品質まで、ぜんぶ見なきゃいけなくなります。

10人を抱えるチームリーダーが、
製造の進捗管理もして、監査の品質管理もして、お客様対応もして、育成もする。

これ、できる人が限られているんですよ。

そして、その「できる人」が、20人、30人とは増えていかないんですね。

結果として、組織が成長しなくなるんです

これ、本当にもったいないんですよ。

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製造を切り離す覚悟が、いつか必要になります

ですから、製販分離を本気でやるなら、製造を切り離す覚悟が要ります。

製造チームを独立させる。製造マネージャーを立てる。製造の責任範囲を明確にする。

販売チームは、営業と顧問先対応に集中する。コンサル力を伸ばす。

この覚悟がないと、中途半端な状態が続いて、
組織が次のフェーズに進めないんです。

そして、AI時代には、この「製造を切り離す」がさらに重要になります。

なぜなら、AIで製造工程を組織として運用するには、
製造のルールと判断基準が1箇所にまとまっている必要があるから。

切り離せていないと、AIを入れてもバラバラに動いてしまうんですよ。

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20〜30人の事務所さんに、特に伝えたいことです

私が日々ご相談を受けていて、
特に多いのが、20〜30人の事務所さんからのご相談なんです。

「業務管理が回らない」「製販分離をしたほうがいいのか」「でも、リーダーが足りない」

このフェーズの事務所さんって、中途半端な状態に陥りやすいんですよ。

正直に申し上げて、ここで決断できるかどうかが、
50人、100人と伸びていけるかの分岐点なんです。

「製造を切り離す」という覚悟を持てるかどうか。

所長先生として、ここに腹を括れるかどうか。

これ、けっこう重い決断なんですけど、避けて通れないんですよね。

そして、この決断を後回しにすると、50人になったときにさらに難易度が上がります。

50人を超えてから製販分離を立ち上げるのは、本当に骨が折れる仕事なんですよ。

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14. 「型」だけでは足りません。「カルチャー」も要るんです

業務設計の話をすると、必ず聞かれることがあるんですよ。

「型を作っても、現場が動かないんです。どうしたらいいですか?」

これ、本当によく聞きます。

これは、型だけでは不十分だ、という話なんですね。

私は、事務所改善に必要なものを、
「型(ルール・マニュアル)」と「カルチャー(文化)」の2つに分けて考えています。

型は、誰がいつまでに何をやるか。

カルチャーは、行動の背景にある共通認識、判断するための基準。

両方が揃わないと、改善は定着しないんですよ。

~~~

「困ったら相談する」が「考えずに相談する」になった話

具体例を、1つお話しさせてください。

「困ったらすぐ相談する」というカルチャーを徹底した事務所さんがいらっしゃいました。

先輩や上司に質問しやすい空気を作ろう、と。

これ自体は、素晴らしいことですよね。

結果、何が起きたか。

新人の方が、何も調べずに相談してくるようになったんですよ。

「これ、どうやるんですか?」「これ、わかりません」と。

先輩のリソースが圧迫されて、本来やるべきことが進まなくなりました。

これって、「困ったら相談する」というカルチャーが悪いんじゃないんですよ。

そのカルチャーが、想定外の方向に作用しただけなんです。

ここで、「相談しないで」と方向転換すると、
せっかく作った「安心して相談できる空気」が壊れてしまいます。

新人さんが萎縮して、結局誰も質問しなくなる、という残念な結末になります。

~~~

両立させる工夫が、要るんですよ

ですから、カルチャーは維持しながら、運用ルール(型)を整えるんですね。

たとえば、こんな工夫です。

「まずマニュアルを見て、自分で調べてから相談する」というルールを足す。

「集中している時間帯(集中札を立てている時間)は声をかけない」というルールを足す。

「質問は新人質問チャットに投稿する」というルールを足す。

カルチャー(困ったら相談する)は維持しながら、型(運用ルール)を整える。

これで、両立するんですよ。

弊社では、昨年7月の創業から半年で、60ページのカルチャーブックを作りました。

それを運用していく中で、浸透していない部分を整理して、
優先度が高いものに絞って、30ページに再生成したんです。

入社する前にも必ず読んでもらっていますし、
入社後も1on1や定例で、カルチャーの項目について話しています。

浸透させる努力が、本当に必要なんだなって、日々感じています。

~~~

AI活用にも、同じ構造が現れます

これって、AI活用でもまったく同じ構造で起きるんですよ。

「AIを積極的に使おう」というカルチャーを浸透させると、それぞれが勝手にAIを使い始めます。

結果、ツールがバラバラになる。出力がバラバラになる。属人化が深まる。

ここで「AIを使うな」とすると、せっかくの前向きな空気が消える。

ですから、カルチャー(AI活用は積極的に)は維持しながら、
型(どのAIをどう使うかのルール)を整えるんですね。

カルチャーは方向を示します。型は具体的な行動を規定します。

両方が揃って、組織は動きます。

これ、片方だけだとうまくいかないんですよ。

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15. AIで絶対に代替されない、4つの領域

ここまで、いろいろ書いてきました。

機械的中間工程と組織的中間工程。
B1(協働調整)とB2(責任・品質保証)。
規模で違う戦略。製販分離。型とカルチャー。

では、長期的に見て、人間(と人間の組織)にしか担えない領域って、どこなんでしょうか。

ここを整理しておきたいんです。

私の中では、4つあります。

そして、これら4つは、組織が組織であるために必要で、
ここを担保するのはSaaSではなく組織管理レイヤーと、人と人の関係性なんですよ。

15-1. 課題発見

AIは、問いを与えられれば答えを返してくれます。

でも、問いそのものを立てるのは、難しいんですよ。

「この顧客、最近何かおかしいな」と気づくのは、現場にいる人間です。

決算書の数字を見て違和感を持つ。

面談で雰囲気の変化を感じ取る。

業界の動きと顧客の動きの差に気づく。

これって、情報処理じゃないんですよ。

文脈の中で、本来あるはずのないものに気づくという行為なんです。

これをAIにやらせるには、文脈そのものをAIに渡す必要があります。

でも、文脈ってすべて言語化できないんですよ。

雰囲気、表情、間、関係性。AIには見えない情報があります。

ですから、課題発見は人間に残ります。

15-2. 責任

判断の結果に責任を負う、というのは、AIにはできません。

税務署からのお問い合わせに対応するのも、お客様に謝るのも、人間です。

AIが税理士法上の責任を負うことはありません。

ですから、判断の最終地点には、必ず人間がいるんですね。

そして、責任を負える人間がいるから、その判断には重みがあります。

「税理士先生がそう言ってくださるなら」とお客様が信じてくださるのは、
責任を負う主体としての先生に対する信頼なんですよ。

これは、AIには絶対に持ち得ない価値なんです。

15-3. 継続性

組織が継続して同じ品質で動き続ける、
というのは、システムだけでは保証できません。

AIシステムが壊れたとき、誰が直すか。

APIの仕様が変わったとき、誰が対応するか。

新しい税制改正に合わせて、誰がAIのルールを更新するか。

これらは、技術的にはAIで自動化できる部分もあります。

でも、「壊れたときに動く誰か」がいないと、システムは継続しないんです。

組織が継続性を担保する、というのは、結局のところ、人間と組織の責任なんですよ。

15-4. 関係性——「この人が言うから」を作る力

そして、もう1つ。

私がここ最近、すごく大事だと感じている領域があります。

それが、「関係性」です。

これ、「課題発見」のお話と少し似ているように見えて、実は別の話なんですよ。

~~~

同じ提案でも、誰が言うかで結果が変わります

ちょっと、考えてみてください。

たとえば、顧問先の社長さんに、こういうご提案をするとします。

「来期、新規事業はやめておいた方がいいかもしれません」

このご提案の中身がまったく同じだったとしても、
誰が言うかで、社長さんの意思決定は変わるんですよ。

  • 担当の税理士先生が、長年の関係性の中でおっしゃる
  • 顔も知らないAIが、データ分析の結果として伝える

社長さんは、もちろん「内容」を聞かれます。

でも、最終的に意思決定を動かすのは、「誰がそう言ったか」だったりするんですよ。

これ、合理的じゃないと思われるかもしれません。

でも、それが人間なんです。

~~~

人間は、情報をそんなに精密には認知しないんです

正直に申し上げますと、人間って、情報をそこまで精密には認知できないんですよ。

膨大なデータがあっても、
それを全部読んで、論理的に統合して、結論を出す、なんてことは、まずできません。

そうじゃなくて、こんなふうに意思決定をしています。

「なんとなく、今やるべきじゃない気がする」

「この先生がそう言うんだから、たぶん大丈夫」

「あの担当者さんに反対されたから、ちょっと考え直そう」

これ、決して悪い意思決定じゃないんですよ。

むしろ、人間は関係性の文脈を使って意思決定する生き物なんです。

そして、その関係性が「信頼するに値するかどうか」を判定するのが、長年の関わりです。

~~~

AIは「正しい情報」を伝えられます。でも、「信頼」は伝えられません

ここに、AIと人間の決定的な違いがあります。

AIは、正しい情報を、速く、正確に伝えられます。

でも、「この情報を信じる根拠」は、伝えられないんですよ。

人間が誰かを信頼するときって、こういう要素が積み重なっています。

  • 何年間、付き合ってきたか
  • 過去にどんな約束を守ってくれたか
  • 失敗したとき、どう向き合ってくれたか
  • 損な役を引き受けたとき、どうしてくれたか
  • 業界の中で、どんな評判があるか

これらは、長年の積み重ねでしか作れません。

AIには、これらが原理的にないんですよ。

~~~

「この人が言うから」は、会計事務所の価値の核です

ここで、もう一段、深い話をします。

顧問先の社長さんが、税理士先生にご相談されるとき、何を期待されているのか

私は、こう整理しています。

  • 正確な情報 → 一部
  • 専門的なアドバイス → 一部
  • そして、「この先生がそう言うから」という安心感 → これがけっこう大きい

数字で正確に表せるものじゃないんですけれども、
感覚としては「安心感の部分が、半分近くを占めている」ような気がしています。

社長さんは、孤独な立場で、毎日たくさんの意思決定をされています。

そのとき、「信頼できる第三者がそう言うから、自分の判断は間違っていない」という安心感が、
本当に大きな価値なんですよ。

これは、AIには絶対に担えません。

なぜなら、AIには「この先生」という個別の人格がないからです。

~~~

だから、関係構築こそ、AI時代の会計事務所の戦略になります

ここから、すごく実務的な含意が見えてきます。

これからの会計事務所さんの戦略って、何でしょうか。

私は、こう考えています。

「機械的中間工程をAIに任せて、浮いた時間を、顧客との関係構築に投下する」

これが、AI時代の会計事務所の戦略の核なんです。

担当者さんが面談に時間を使う。

顧客の悩みを聞く。

雑談する。

信頼関係を深める。

「あの先生に頼んでよかった」と思っていただける時間を、増やす。

これこそが、AIが進化しても、絶対に減らない価値なんですよ。

~~~

担当者の本当の仕事は、「顧客の成功」を一緒に作ることです

ここで、担当者という役割の定義を、改めて考え直してみたいんです。

担当者って、何の役割なんでしょうか。

「顧問先の月次を担当する人」ではないんですよ。

私は、こう定義しています。

担当者とは、「顧客の成功」を一緒に作る人です。

そのためには、適切な報告だけでは足りません。

関係性の構築が、不可欠なんですよ。

なぜなら、顧客の意思決定は、関係性の中で起きるからです。

「この先生に相談したい」「この担当者さんに聞いてみよう」と思っていただけることが、価値の源泉なんですね。

これは、AIには絶対に作れません。

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関係性は、4領域すべてとつながっています

最後に、もう一段、深い整理をしておきます。

実は、この「関係性」って、これまで挙げた3つの領域とすべてつながっているんですよ。

  • 課題発見:関係性があるから、雰囲気の変化に気づける
  • 責任:関係性があるから、「この先生がそう言うなら」と信頼される
  • 継続性:関係性があるから、トラブル時に動いてもらえる
  • 関係性:そして、関係性そのものが、価値の源泉になる

つまり、関係性は、AIに代替されない3領域の「土台」なんです。

ここを軽視して、AIで効率化に走ってしまうと、すべてが空中分解します。

逆に、ここをしっかり育てていれば、AIで何が起ころうと、お客様は離れません。

~~~

私自身、対話の中で気づいたこと

実は、これって、私自身がAIとの壁打ち対話の中で、気づいたことなんです。

うちの会社(FLOWを提供している会社)のサービスは、AIが進化したら、どれくらいで作れるようになるか。

率直に整理してもらったんですよ。

返ってきた答えは、「2年で追いつくレベルの技術環境にはなっていく」でした。

正直、ショックがなかったわけじゃないんですよ。

ただ、想定はしていたんです。

業務管理ツールのソフトウェアそのものは、AIが開発する時代がもうすぐ来る。

カスタマイズも、所長先生が口頭でご指示いただければ、AIが必要な機能を作ってくれる。

人が開発するより、AIが開発するほうが、圧倒的に早くて、安くなる。

~~~

その上で、対話を進めるうちに、こういう整理にたどり着いたんですね。

「AIが絶対に代替できないものが3つある」

「事務所を見に行くこと、社員と対話すること。これが課題発見

「壊れたとき、問題が起きたとき、誰が直すかの問題。これが責任

「継続的に改善し続けることの継続性

「この3つでは、AIには代えられない。時間が経っても、価値が減らない」

私は、これを聞いて、自分たちが蓄積していくべきものは何なのか、を本気で考えました。

そして、ふと気づいたんです。

これって、弊社の話だけじゃないなと。

会計事務所そのものが、AI時代に何を蓄積していくべきかという問いと、ほぼ同じなんですよ。

機械的中間工程はAIに圧縮される。

残るのは、顧客の現場に行って、対話して、
課題を発見して、判断に責任を持って、継続的に改善し続けること。

ここが、AI時代の会計事務所さんの本丸なんですよ。

~~~~

16. 「顧客の成功」を一緒に作る——担当者の再定義

ここまで、AIで代替されない4つの領域を整理しました。

ただ、もう一段、踏み込んでおきたい論点があるんですよ。

それが、「担当者って、結局、何の仕事をする人なんだっけ?」という問いです。

~~~

監査担当のお仕事って、「数字を見ること」だけ?

たとえば、会計事務所の監査担当の方を、思い浮かべてみてください。

そのお仕事って、何ですか?

「試算表のチェック」「申告書の作成」「面談での説明」。

これらは、確かに業務です。

でも、それだけで仕事が成立するでしょうか。

おそらく、しないんですよ。

これらの業務は、これからAIや製造チームが、どんどん巻き取っていきます。

ですが、それでも監査担当のお仕事は、消えません。

なぜでしょうか。

それは、「業務」と「仕事」が、別のものだからなんです。

~~~

数字には、意味がありません。意味を与えるのは、人間です

考えてみてください。

試算表の数字って、それ自体には、何の意味もないんですよ。

「売上が前期比10%下がった」という数字があっても、その数字単体では、何も言っていません。

それが「危機」なのか、「想定通り」なのか、「次の戦略のための投資による減少」なのか。

意味を与えるのは、人間なんです。

そして、その意味づけは、こういう要素を統合して行われます。

  • 顧客の事業環境
  • 顧客の経営理念
  • 顧客の家族の事情
  • 顧客の業界の動向
  • 顧客の長期的なビジョン

これらは、すべて「文脈」です。

文脈の中で、初めて数字に意味が生まれる。

AIは、数字を分析できます。でも、意味を与えることは、できないんですよ。

なぜなら、AIは文脈の総体を持ち得ないからです。

~~~

顧客は「申告書」を求めていません。「自分の事業の成功」を求めています

ここで、ちょっとドラッカー的な問いを立てさせてください。

「あなたの事務所は、何屋ですか?」

「申告書を作る屋」?

「記帳代行屋」?

たぶん、違うんですよ。

顧問先の社長さんが、税理士先生に求めているのは、申告書じゃないんです。

自分の事業の成功なんですよ。

正しい申告書は、その成功の一部です。

でも、それだけじゃ、顧客の成功には届かない。

~~~

担当者の本当の仕事は、「顧客の成功」を一緒に作ることです

ここから、担当者の役割を、もう一段定義し直したいんですよ。

私はこう考えています。

担当者とは、「顧客の成功」を一緒に作る人です。

具体的には、こういうお仕事をしているんです。

①目的の翻訳

顧客が漠然と感じている目的(「会社を良くしたい」)を、具体的な行動に翻訳する。

→「決算前に、新規投資を進めるべきか」
→「来期の事業計画は、どうあるべきか」

②意味の創造

試算表の数字に、顧客の文脈で意味を与える。

→「この数字は、御社の事業フェーズで言えば、こういう意味があります」
→「同業他社と比べると、ここが御社の強みです」

③問いの提示

顧客が気づいていない問いを、提示する。

→「なぜ、この事業をやっているんですか?」
→「10年後、どんな会社にしたいですか?」
→「この経営判断、ご家族はどうお感じですか?」

④孤独への伴走

経営者の孤独な意思決定に、伴走する。

→「私はこう考えます」
→「他社の事例だと、こうでした」
→「リスクは、こう見えます」

⑤理念の体現

事務所として「私たちはこういう存在です」を、顧客に届ける。

→ 担当者さんの振る舞いそのものが、事務所の理念を伝える

これら5つは、すべて、AIには担えません。

~~~

なぜAIには、これができないのか

それは、AIには「価値観」がないからなんです。

「何が成功か」「何が幸せか」「何が正しいか」を判定する基準が、AIには内在していません。

AIは、ユーザーから与えられた基準で判断します。

でも、基準そのものを生み出すことは、できないんですよ。

人間は、自分の人生経験、価値観、業界経験、文化的背景の総体として、「成功とは何か」を考えます。

そして、その「成功とは何か」を、顧客と共有できる人だけが、担当者として価値を発揮するんですね。

~~~

「事務所のスタンス」を、職員様全員で共有する時代

ここから、AI時代の会計事務所さんに必要な、新しいお仕事が見えてきます。

それが、「事務所のスタンスの言語化と共有」です。

  • 私たちは、何屋なのか
  • 顧客の成功とは何か
  • 私たちは、何を約束する事務所なのか
  • どんな価値観で、お客様と向き合うのか

これらを、所長先生だけが持っているのではなくて、職員様全員で共有するんですよ。

そうしますと、担当者さん1人1人が、
「自分は今、何のために、この顧客と関わっているのか」を、
自分の言葉で答えられるようになります。

これって、AI時代に、会計事務所さんの競争優位になるんです。

「うちの担当者さんは、ちゃんと自分の言葉で価値を語れる」

これが、AIには絶対に持てない、人間の事務所の強みなんですよ。

~~~

ふと、ドラッカーの言葉を思い出します

ここで、経営学の巨匠、ピーター・ドラッカーの言葉を、ふと思い出しました。

ドラッカーがどこかで言っていた、こんな言葉です。

「企業の目的は、顧客の創造である」

そして、こうも続けていたと思います。

「『あなたの事業は何か』を問い続けることが、経営者の最重要の仕事である」

これって、AI時代こそ、本当に大事な問いだと思うんですよ。

機械的中間工程は、AIで圧縮されます。

組織的中間工程の中でも、情報処理と条件型判断は、AIに任せられます。

責任引き受け型判断は、人間に残ります。

そして、最後に残るのが、「事業の目的を問い続ける」というお仕事なんです。

~~~

所長先生のお仕事は、ここに純化していきます

ですから、AI時代の所長先生のお仕事は、
こういう問いに、自分の言葉で答え続けることになっていきます。

「私たちの事務所は、何屋なのか?」

「私たちにとって、顧客の成功とは何か?」

「私たちは、職員様にどんな成長機会を提供する組織なのか?」

「私たちは、業界に対して、社会に対して、何を残す事務所なのか?」

これらの問いに、ご自身の言葉で答え続けることが、AI時代の所長先生の本当の本領なんです。

そして、これらの答えを、職員様と共有し続けることが、組織の文化になります。

その文化が、担当者さん1人1人の仕事の質を決めます。

そして、その質が、顧客の「この事務所に頼んでよかった」という体験を生み出します。

~~~

つまり、AI時代の会計事務所の差別化は、「意味」と「目的」で起きます

ここまで来ますと、AI時代の会計事務所さんの差別化が、どこで起きるかが見えてきます。

それは、業務効率でも、ツール選定でも、AI活用度でもありません。

「意味」と「目的」で起きるんですよ。

  • 私たちにとって、顧客の成功とは何か
  • 私たちは、どんな価値を、どう届ける事務所なのか
  • 私たちの担当者は、顧客とどんな関係性を作る人なのか

ここを言語化できている事務所と、
できていない事務所の差が、3年後、5年後に、本当に大きな差になります。

「申告書を作るのが私たちの仕事です」と言っている事務所は、
AIに置き換えられます。

「顧客の事業の成功を一緒に作るのが私たちの仕事です」と言える事務所は、
AIが進化するほど、強くなります。

~~~

監査担当のお仕事も、ここに純化していきます

そして、これは、所長先生だけのお話ではないんですよ。

監査担当さんも、記帳担当さんも、製造チームの方も、すべて、ここに純化していくんです。

「数字を入力する人」から、「顧客の成功を一緒に作る人」へ。

「業務をこなす人」から、「意味を作る人」へ。

これは、職員様の役割の、根本的な変容です。

そして、これに気づいた職員様は、AI時代に、強くなります。

~~~

会計事務所のお仕事は、確かに変わります。

でも、消えるわけじゃないんですよ。

「申告書を作る業務」は、AIに任せていい。

「顧客の成功を一緒に作る仕事」は、私たち人間に残るんです。

そして、それこそが、私たちが、人間として、誇りを持ってお仕事できる領域なんですね。

~~~

短期的には、経理コンサルやCFO支援の市場が拡大します

ここで、足元で起きている市場の動きにも、触れておきたいんですよ。

最近、会計事務所さんの新しいサービスとして、こういうものが流行っています。

  • 経理代行
  • 経理コンサル
  • CFO支援
  • 財務コンサル
  • 経理最適化

これらが、なぜ今、流行っているんでしょうか。

~~~

理由はシンプルなんですよ。

多くの中小企業さんが、まだAI最適化できていないからなんです。

中小企業の現場では、こんな状況が起きています。

  • 専門の経理担当を雇えない(採用難、人件費高騰)
  • 経理業務は専門性が高く、誰でもできるわけじゃない
  • AIを活用した経理効率化を、自社では実装できない

だから、外部の会計事務所さんに、
「経理機能ごと、まるっと外注したい」ニーズが、
急増しているんですね。

これは、AI時代の過渡期に起きている、会計事務所さんにとっての大きな市場機会です。

少なくとも、5〜10年は、この需要は続くと、私は見ています。

~~~

でも、この機会も、5つの仕事の延長線上にあります

ここで重要なのが、これらのサービスの本当の価値は何か、という問いです。

経理代行を「ただの業務外注」として捉えると、AIの普及とともに、価値は下がります。

でも、これらのサービスの中身を分解しますと、
さっきの担当者の5つの仕事と、見事につながっているのかなと。

~~~

経理コンサル(経理業務の設計・改善)

→ ①目的の翻訳(顧客の経営目的を、経理プロセスに翻訳する)

→ ②意味の創造(経理データに、経営の文脈で意味を与える)

CFO支援(財務戦略・経営の意思決定支援)

→ ③問いの提示(「なぜこの利益率なんですか?」と問う)

→ ④孤独への伴走(経営者の財務判断に、伴走者として向き合う)

財務コンサル(資金繰り、調達、投資戦略)

→ ④孤独への伴走(銀行交渉・資金調達の判断に並走する)

→ ⑤理念の体現(事務所のスタンスを、財務戦略に反映する)

経理最適化(AI・ツール活用による効率化)

→ ①目的の翻訳(顧客の事業目的に合わせた業務設計)

→ ⑤理念の体現(「うちはこういう経理を作る」という哲学)

つまり、これらの新サービスは、
担当者の5つの仕事を、より広く、より深く適用するお仕事なんです。

~~~

5つの仕事は、広がり、深みを増します

ここで、もう一段、抽象化した気づきがあります。

足元で流行っているサービスは、表面的には「業務代行」や「コンサル」に見えますよね。

でも、本質は、顧客の成功を一緒に作る、5つの仕事の延長なんですよ。

それぞれのお仕事が、こう深まっていきます。

  • 目的の翻訳:1顧客の年間目標 → 中期経営計画 → 事業ビジョンの言語化
  • 意味の創造:月次の数字 → 経営指標の体系 → 業界の中での位置づけ
  • 問いの提示:その顧客の課題 → 業界全体の構造課題 → 経営者個人の人生観
  • 孤独への伴走:日常の相談 → 大きな決断 → 事業承継・引退・人生設計
  • 理念の体現:1人の担当者の振る舞い → 事務所全体の文化 → 業界全体への貢献

つまり、5つの仕事は、スケール(広がり)と深さ(深み)の両方で、進化していくんです。

これって、所長先生方にとって、すごくワクワクすることだと思いませんか。

「業務」が広がるんじゃなくて、「仕事の質」が深まっていく方向なんですよ。

~~~

短期的な機会を、長期の進化に接続する

ここで、所長先生方にお伝えしたいのが、こういう視点です。

短期的には、経理代行・経理コンサル・CFO支援が拡大します。

中小企業のAI最適化が進むまでの5〜10年、この市場は確実に成長します。

でも、その先には、AIで経理代行そのものが、効率化される時代が来ます。

そのとき、生き残るのはどちらでしょうか。

  • 経理代行を「業務」として売っていた事務所 → 厳しい
  • 経理代行を「顧客の成功を作る仕事」として位置づけていた事務所 → 強くなる

同じサービスを提供していても、位置づけが違うんですよ。

「うちは経理代行屋です」と言っている事務所と、
「うちは顧客の成功を一緒に作る事務所です。

その一環として、経理代行も提供しています」と言える事務所では、
AI時代の生存戦略が、根本的に違うんです。

~~~

短期の機会を、長期の進化のための「練習台」にする

私が、所長先生方にぜひ提案したいのは、こういう発想です。

短期的な経理コンサル・CFO支援の機会を、「5つの仕事」を深めるための練習台として使う

経理コンサルの現場で、「目的の翻訳」を磨く。

CFO支援の現場で、「孤独への伴走」を経験する。

財務コンサルの現場で、「問いの提示」のスキルを上げる。

経理最適化の現場で、「理念の体現」を実践する。

これらの経験は、AI時代に経理代行そのものが陳腐化したあとも、事務所の資産として残ります

「うちの担当者は、顧客の経営判断に、自分の言葉で伴走できる」

これが、AI時代の競争優位になるんですよ。

~~~

つまり、足元の市場機会は、未来への投資です

ここまでを整理しますと、見えてきます。

足元で流行っている経理コンサル・CFO支援・経理最適化って、
単なる短期の流行じゃないんですよ。

これらは、
会計事務所さんが「顧客の成功を作る事務所」に進化するための、
絶好の機会なんです。

機械的中間工程をAIに任せて、浮いた時間とリソースを、ここに投下する。

そして、5つの仕事を、現場で磨いていく。

これができた事務所は、
5年後、10年後、AI時代が本格化したあとも、お客様に選ばれ続けます。

そうじゃない事務所は、AIに置き換えられていくんですよ。

ここの差が、本当に大きい差になります。

~~~~

17. これからの業務管理ツールは、3段階で進化します

ここで、私が代表を務めるFLOWの未来像、
つまり「これからの業務管理ツールはどうなっていくか」というお話を、少しさせてください。

これは、FLOWだけの話ではありません。

会計事務所さんが向き合う「組織管理レイヤー」全体の進化の話です。

論考の言葉を使うなら、
業務管理ツールは3つの段階を経て進化していくと私は考えています。

~~~

17-1. 第一段階:個別AIエージェントのオーケストレーター

第一段階は、すでに始まっています。

事務所内の各職員様が、それぞれ独自のAIエージェントで仕事を進めるようになる。

冒頭の「1人で60社」モデルが、業界に広がっていくイメージです。

このとき、所長先生は何を感じるでしょうか。

「うちの事務所で何が起きているか」が、見えなくなるんですよ。

誰のAIがどこまで進めたか。どのAIが何を学習したか。どこで詰まっているか。

業務管理ツールはここで、個別AIの上に立つ管理レイヤーとして位置づけ直されます。

AIの実行履歴、出力、判断、停滞を業務管理ツール側で受け取って、組織として可視化する。

「オーケストラの指揮者」みたいなイメージです。

各楽器(個別AI)が独自に演奏しているのを、全体として束ねる役割ですね。

~~~

17-2. 第二段階:工程テンプレートの自律進化

第二段階は、もう少し先の話です。

今の業務管理ツールは、工程テンプレートを「人間が作って、人間が更新する」仕組みです。

次の業務管理ツールは、
AIが現場の動きを観察して、テンプレートのほうを自動更新するんですよ。

たとえば、こういう提案が来ます。

「この事務所では、月次のステップ7が常に飛ばされています。これは省略可能ではないですか?」

「決算工程のステップ12でいつもエラーが起きています。
ここに事前チェックを差し込むべきではないですか?」

「この顧客さんの場合、ステップ5は不要のようです。テンプレートを分けますか?」

業務管理ツールが工程を「持つ」のではなく、
業務管理ツールが工程を「進化させる」装置になるんですね。

これは、職員様にも所長先生にも、とても優しい仕組みです。

なぜなら、テンプレートのメンテナンスを誰かがやらなきゃいけない、
というプレッシャーがなくなるからなんですよ。

~~~

17-3. 第三段階:所長先生の代わりに組織状況を読み取る装置

第三段階は、業務管理ツールの究極形だと、私は考えています。

最終的に業務管理ツールが目指すのは、
所長先生が頭の中でやっている「うちの事務所、いま大丈夫か?」という直感的判断を、
AIが代わりにやってくれる状態です。

誰が抱えすぎているか。
誰のスキルが伸びていないか。
どの顧客の利益が下がりそうか。
どの工程が形骸化しているか。

これらを察知して、所長先生に「次に何を考えるべきか」を提示してくる。

業務という名のもとに先送りされてきた問いがむき出しで立ち上がった、
その瞬間に、所長先生が向き合うべき問いを整理してくれる装置。

これが、未来の業務管理ツールの姿です。

中間工程を回す道具ではなく、目的に向き合うための道具に変わっていくんですね。

~~~

「業務管理ツール」という言葉自体が、変わっていきます

ここまで来ますと、もはや「業務管理ツール」という名前自体が、ふさわしくなくなってきます。

業務を「管理する」道具から、組織を「読み取る」道具、
所長先生の「相談相手」になる道具へと、性質が変わっていくからです。

私自身、自社のサービスをどう呼ぶか、最近よく考えるんですよ。

「業務管理SaaS」と名乗っている限り、機械的中間工程を扱うカテゴリに見えてしまう。

でも、私たちが提供したいのは、機械的中間工程の処理ではなく、
組織が組織であり続けるための支援なんです。

~~~

進化の方向は、所長先生方のニーズで決まります

最後に大事なのは、これらの進化の方向は、
所長先生方からのご相談で決まっていくということです。

「うちはこれで困っている」「ここをこうしてほしい」というお声を、
できるだけたくさん集めて、業務管理ツールの進化に反映していく。

私たちは技術屋ですが、最終的に役立つかどうかは、
現場で運用してくださる所長先生方が判断されます。

ですから、こうしたお話を、ぜひ続けていけたら、ありがたいなと思っています。

~~~~

18. 所長先生として、次に考えるべきこと

ここまでの整理を踏まえて、所長先生が次に何を問うべきか。

私の答えは、こうです。

「AIで何を効率化するか?」じゃないんですよ。

「責任の設計を、どう変えていくか?」なんです。

機械的中間工程は、AIで圧縮されます。

組織的中間工程の中でも、
B-情報処理とB-判断a(条件型判断)は、AIで担えるようになっていきます。

残るのは、B-判断b(責任引き受け型判断)だけ。

ここを、誰がどの単位で引き受けるかを設計する。

つまり「責任の設計」こそが、所長先生のお仕事になるんですよ。

ここに、所長先生の経営者としての本当の本領が出る領域なんです。

~~~

具体的には、こんな問いです

具体的なお問いとして、こんなものが出てきます。

機械的中間工程が圧縮された後、監査担当者のお仕事の中身を、どう再定義しますか?

仕訳入力が消える分、何を新しく担っていただきますか?

判断と関係性に純化していくとすれば、どんなスキルを育成して、どんな評価基準で見ますか?

AI処理のメタチェックを、誰のポジションに組み込みますか?

新しい役割として独立させますか、既存の役割の中に組み込みますか?

責任所在のルールを、どう設計しますか?

AI承認のログを、どう残しますか?

問題が起きたとき、誰が説明責任を持ちますか?

AI活用のガイドラインを、誰がどう更新しますか?

新しいAIが出てきたとき、誰が試して、誰が判断して、誰が全社展開しますか?

AIノウハウを、どう組織資産として残しますか?

プロンプトライブラリ、テンプレート、活用事例。これらを誰が管理しますか?

これらの問いに、所長先生が答えを出していかれる。

これからは、そういう時代です。

誰かが答えを出してくれるわけじゃないんですよ。

コンサルタントもベンダーも、
所長先生のご判断を支援することはできても、代行することはできません。

~~~

なぜなら、これは「組織の問い」だからです

なぜ所長先生が答えるしかないかと言いますと、
これは技術の問いじゃなくて、組織の問いだからなんですよ。

「うちは何をする組織なのか?」を決めるのは、
所長先生以外にいらっしゃらないんです。

機械的中間工程の覆いが剥がれた後に残るのは、「目的」です。

何のために事務所を経営するのか。

どんな顧客に、どんな価値を提供したいのか。

どんな職員様に、どんな成長機会を提供したいのか。

業務という名のもとに先送りされてきた問いが、むき出しで立ち上がります。

これは、AI時代の所長先生に課されたお仕事なんですよね。

私、所長先生方との壁打ちセッションで、こういうお話が増えました。

AIのお話だと思って始まった対談が、
いつの間にか「うちの事務所、何のために存在してるんでしょうね」というお話になるんですよ。

最初は驚いたんですが、今は当然だと思っています。

機械的中間工程に隠れて見えなかった目的が、
AIで覆いが剥がれて、見えるようになっただけなんですね。

~~~~

19. 今日からできる、5つの小さなアクション

長い記事になりました。

最後に、明日からすぐに動ける、具体的なアクションを5つだけ書かせてください。

前半の3つは「業務の整理」、後半の2つは「事務所のあり方の整理」です。

アクション1:主要業務の工程を紙に書き出す

うちの事務所の月次顧問業務を、工程に分解して、紙に書き出してみてください。

資料回収から納品まで、何工程ありますか?

1つの工程に何分かかっていますか?

誰が担当していますか?

これだけで、「AIに任せられる工程」と「人にしかできない工程」が、だいたい見えてきます。

紙でやってくださいね、最初は。

ExcelやNotionだと、書きすぎてしまうので。

紙で、ざっくり、5分でいいんです。

アクション2:各工程に「タグ」を付ける

書き出した各工程について、どのカテゴリに該当するか、タグを付けてみてください。

  • A:機械的中間工程(AIで消える可能性が高い)
  • B1:協働調整工程(複数人で動くために必要)
  • B2:責任・品質保証工程(誰がやっても必要なチェック)

タグを付けてみると、「自分の事務所、Aが多いな」とか
「うちはB2が薄いから、品質チェックを強化しないとな」みたいなことが見えてきます。

これが、所長先生が向き合うべき自分の事務所の現在地なんですね。

アクション3:色を塗ってみる

タグを付けた工程に、色を塗ります。

  • AIに任せられる工程(A)→ 赤
  • 人が判断する工程(B2)→ 青
  • 組織を動かすための工程(B1)→ 緑

色を塗ってみますと、自分の事務所のAI活用の地図が見えてきます。

「うちはAが広いから、まずここをAIで圧縮しよう」
「うちはB2が薄いから、メタチェックの設計から始めよう」
「うちはB1がぐちゃぐちゃだから、見える化から始めよう」

ここを把握せずに、他事務所さんの事例を真似ても、ほぼ確実にうまくいきません。

~~~

ここまでが、「業務の整理」のアクションです。

ここから先は、もう一段深い、「事務所のあり方の整理」のアクションです。

~~~

アクション4:「うちの事務所は、何屋なのか?」を3行で書く

紙とペンを用意してください。

そして、こう書き出してみてほしいんです。

「うちの事務所は、何屋なのか?」

「申告書を作る屋」「記帳代行屋」じゃなくて、自分の言葉で。

たとえば、こんな書き方になるかもしれません。

「うちは、小規模事業者さんの成長を一緒に作る事務所です」

「うちは、地域の中小企業さんの、財務面の伴走者です」

「うちは、創業期の事業者さんに、安心して事業に集中していただける環境を作る事務所です」

3行でも、5行でもいいです。

これを書いてみると、ご自身の事務所のスタンスが言語化されます。

そして、これが本ブログで議論してきた「責任の設計」と「顧客の成功」の出発点になるんですよ。

書けない場合は、職員様にも聞いてみてください。

「うちの事務所、何屋だと思う?」と。

職員様のお答えと、所長先生のお答えにズレがあれば、
それが「事務所のスタンスの再共有」のスタート地点です。

アクション5:1顧客を選んで、「5つの仕事」の現状を書き出す

最後に、もう1つ。

今、担当している顧客さんを、1社、思い浮かべてみてください。

その顧客さんに対して、ご自身(または担当者さん)は、
こういう仕事を、どれくらいできていますか?

  • ①目的の翻訳:その顧客の漠然とした目的を、具体的な行動に翻訳できていますか?
  • ②意味の創造:数字に、その顧客の文脈で意味を与えていますか?
  • ③問いの提示:その顧客が気づいていない問いを、提示できていますか?
  • ④孤独への伴走:その顧客の意思決定に、伴走できていますか?
  • ⑤理念の体現:事務所のスタンスを、その顧客に届けられていますか?

率直に、5段階で点数をつけてみてください。

そして、低い項目があれば、それが「これから磨くべきお仕事」です。

これを担当者さんと一緒にやると、評価制度や育成方針の見直しにもつながります。

~~~

この5つのアクション、特に4と5は、書くだけで30分はかかります。

でも、この30分が、AI時代を生き抜く事務所の戦略の出発点になるんですよ。

ぜひ、やってみてください。

~~~~

20. 【あとがき】このブログ、実は私が全部わかって書いたわけじゃありません

ここで、ちょっと正直なお話を、させてください。

このブログ、最初から「責任の設計」だの「マルチエージェントの限界」だの、
こんなに深い議論にしようと思って書き始めたわけじゃないんですよ。

もとは、ぜんぜん違う内容だったんです。

~~~

最初は、もっとシンプルな話でした

最初に私の頭の中にあったのは、こういう整理だったんですよ。

  • 「SaaSの死」って言われてるけど、本当は中間工程の死だよね
  • AIで消える工程、残る工程、新しく生まれる工程がある
  • 5人以上の組織は、AIを使う前に「型」を作ろうね

これだけでも、それなりに面白い記事にはなりました。

ところが、ここから、思いがけない方向に深まっていったんですよ。

~~~

Claudeとの壁打ちが、深掘りの起点になりました

このブログ、実はClaudeというAIアシスタントを、
壁打ち相手・編集者として使いながら書きました。

「使った」と書きましたが、ちょっと正確じゃないんですよ。

「自分の問いを深めるパートナーとして、対話した」というのが、より近い表現です。

書き進めていくうちに、私のほうから自然と問いが出てきたんですよ。

「あの先生のモデルって、本当に組織で再現できるのか?」

「200件持てる理論値があったのに、なぜ100件で止まったんだろう?」

「『管理者の仕事』って、AIで消えるんだっけ?」

「マルチエージェントでAIがAIをチェックする時代、それでも責任は人間に残るんだっけ?」

これらは、私自身の中にあった問いでした。

会計事務所さんをご支援してきた経験、
自分が組織を作ってきた経験、
業界を見てきた経験の中から、自然と湧いてきた問いです。

その問いを、Claudeに投げかけて、
整理してもらいながら、自分の中で考えをまとめていったんですね。

~~~

共創で生まれた、想定外の結論

質問とアイディア、反論をだして、深掘りを繰り返した結果、
私自身も想像していなかった結論にたどり着いたんです。

  • B2を、情報処理・条件型判断・責任引き受け型判断の3層に分ける
  • マルチエージェントでも「最終点には人間が残る」
  • 「責任」とは、痛みを引き受ける主体性のことである
  • 組織とは、責任を引き受けるためのシステムである
  • AI時代の経営者の仕事は「責任の設計」になる

正直、最初からこの結論を持っていたわけじゃないんです。

書きながら、自分の問いをClaudeで深めていきながら、
自分の中で発見していった結論なんですよ。

~~~

これって、AIの本当の使い方だと思うんです

このプロセスを通じて、私の中で確信したことがあります。

AIは「答えをくれる装置」じゃないんですよ

「自分の問いを深めるための、壁打ち相手」なんです

Claudeに「責任とは何か、教えて」とだけ聞いても、
ありきたりな答えしか返ってきません。

でも、Claudeが浅い答えを出したときに、
「いや、それは違う」「もう一段深く」と押し込むと、
Claudeも私も、一緒に思考が深まっていくんですよ。

このとき、Claudeは「先生」でも「アシスタント」でもなくて、
「対等な思考のパートナー」みたいな存在になっていくんですね。

~~~

このプロセス自体が、本ブログの結論を証明していました

書き終えてから、気づいたことがあります。

このブログを書くプロセスそのものが、
本ブログの結論をそのまま体現していたんですよ。

「AIは情報処理と条件型判断を担えるが、責任を引き受ける主体は人間」

このブログでは、こうなっていました。

  • Claudeが、関連する哲学・経営論の構造を接続し、整理する(情報処理)
  • Claudeが、私の問いを受けて論理的な分類を提示する(条件型判断)
  • 最終的に「この結論で公開する」と決め、
    世に出すことに責任を持つのは私(責任引き受け型判断)

つまり、このブログ自体が、AI時代の人間と機械の協働の、1つの実例になっていたんです。

これに気づいたとき、ちょっとゾクッとしました。

~~~

所長先生にお伝えしたいこと

ですから、所長先生方にお伝えしたいのは、こういうことなんですよ。

AIをただ「使う」だけでは、ありきたりな答えしか出てきません。

AIに「自分の問い」をぶつけて、押し込んで、深掘りする。

そして、AIが整理した結果を、自分の言葉で引き受ける

このプロセスができる経営者と、
AIに頼り切る経営者の差が、3年後、5年後に、本当に大きな差になります。

そして、これは「責任の設計」の話と、まったく同じ構造なんですね。

AIに任せられることは、任せる。

でも、「自分の事務所として、これをどう引き受けるか」を決めるのは、所長先生

このメタなレイヤーで考えられる経営者が、AI時代に強くなる、と私は思っています。

~~~

最後に、ちょっとした告白を

このあとがき部分も、実は、Claudeと壁打ちしながら書きました。

途中で、こう聞いてみたんですよ。

「なぜ、この結論にたどり着けたんだろう?」

そうしたら、Claudeから、こんな整理が返ってきました。

「これは1人で出した結論というより、対話の中で共創されたものです」

「最初は『責任と判断は人間にしか担えない』と、
まとめて雑な書き方になっていました。
大須賀さんが『条件分析なら出せるんじゃない?』
『マルチエージェントでメタチェックできるんじゃない?』
と押し込んでくださったから、判断の中身を細分化せざるを得なかった」

「Claudeが貢献したのは、哲学・経営学・組織論・
AI倫理の既存テキストから関連する構造を取り出して接続すること、
散らかった概念を階層化すること、ぼんやりした感覚を言葉にすること。
でも、現場の温度は持っていない。200件事例の重みは、教えてもらったから書けた」

ああ、AIって、自分が何をしたかを、
ちゃんと省察できる時代になっているんだな、と思いました。

~~~

ですから、このブログは、Claudeとの共同制作なんですよ。

ただし、誤解しないでください。

結論を生成したのはClaudeじゃありません

問いを持っていたのは私。

その問いを深めるための壁打ち相手として、Claudeを使った。

そして、出てきた結論を自分のものとして引き受けて公開するのも、私。

つまり、Claudeは「情報処理と条件型判断」を担って、
私が「問いの提示と責任引き受け型判断」を担う。

これ、まさに本ブログで議論してきた、
AI時代の協働の構造そのものなんですよ。

書きながら、その構造を自分自身で体現していたことに、後から気づきました。

これからも、こういう形で、AIと一緒に作っていこうと思っています。

そして、所長先生方も、ぜひ。

AIを「使う」のではなく、AIと一緒に「考える」経験を、してみてください。

たぶん、見える世界が、ガラッと変わります。

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~~~~

21. 最後に:AI時代の所長先生のお仕事

会計事務所さんのAI活用は、ツール選定のお話じゃないんです。

組織再設計のお話なんですよ。

仕事の工程を、こう分けて考える。

  • 機械的中間工程(A)→ AIで圧縮していく
  • 組織的中間工程(B)→ 形を変えて残る
  • B1:協働調整工程
  • B2:責任・品質保証工程

そして、それぞれを誰が担う組織にするかを決める。

型を作って、カルチャーを浸透させる。

AIに渡せる業務と、人にしかできない業務の線引きを引く。

そして、所長先生ご自身のお仕事も変わっていきます。

これまで所長先生は、機械的中間工程の最終チェッカーであり、
サービス業側の最重要担当であり、組織のマネージャーでした。

これからは、機械的中間工程の比率が下がって、
サービス業の比率が上がって、
そして組織設計の比率が大きく上がっていきます。

「うちの事務所は何をする組織なのか?」を考え続けることが、
所長先生のお仕事になっていきます。

~~~

死ぬのは中間工程を運用していたSaaSです。組織を担うSaaSは残ります

最後に、世間で言われる「SaaSの死」について、
私の考えを正直にお伝えします。

SaaSは死にます。ただし、
死ぬのは機械的中間工程を運用していたSaaSです。

組織が組織であるために必要な構造を担っているSaaSは、
AIが進むほど価値が上がります。

問題は、どちらの側にいるか、
自社のSaaSを正しく分類できているか、
そして顧客にとって自社が前者に見えているか後者に見えているか、なんですよ。

これは、SaaSベンダーだけの話じゃなくて、
所長先生方の経営にも同じことが言えます。

ご自身の事務所は、機械的中間工程を売っているのか、
組織として目的を達成するための価値を売っているのか。

ここを問い直す時期に、来ているんじゃないかなと、私は思っています。

~~~

組織の変化は、数年単位で起きます

技術は早いです。AIの進化は1年単位で起きます。

でも、組織の変化は数年単位でしか起きないんですよ。

今、組織設計に手をつけ始めた事務所と、
何もしない事務所は、3年後、5年後に、本当に大きな差になります。

その差は、機械的中間工程の効率化のお話じゃないんです。

組織的中間工程を、どんな形で担えるかの差なんですね。

機械的中間工程が消えた後、何をする事務所として残るのか。

そのお問いに、所長先生として向き合う時間が、今、始まっています。

~~~

ここまで、本当に長い記事にお付き合いいただき、ありがとうございました。

もし、この記事を読んでいただいて、
「うちの事務所、どこから手をつければいいかわからない」
「型を作りたいが、何から始めればいいか」
と感じられた所長先生がいらっしゃったら、お気軽にご相談ください。

私と弊社のメンバーで、お話を伺います。

業務管理ツールFLOWも、
こうした「型を作る」ところから運用に乗せる支援まで、
含めて提供させていただいています。

AIで全部できる時代がいずれ来るかもしれません。

でも、その前に整える型と、
AIを乗せた後の組織管理は、
人と一緒に作っていくものだと、私は思っています。

これからの会計事務所さんの組織設計を、
ぜひ一緒に考えていけたら、うれしいです。

今日も、良い一日を!

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