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会計事務所がAIを定着させる2つの視点と3つのステップ

先日、セミナー後の懇親会で所長先生からこう聞かれました。

「AI-OCRを入れたんだけど、結局2人しか使ってなくて……」

よく聞く話です。
実は私、この手の相談をここ1年で何十件と受けています。

  • ChatGPTのアカウントを契約したのに、触っているのは1人だけ
  • AI-OCRを導入したのに、なぜか昔のOCRソフトを使い続けている。
  • セミナーで聞いた事例を真似しようとしたけれど、うちでは再現できなかった
  • 「AIで効率化」と言われても、何から手をつければいいかわからない

こういうこと、ありませんか?

先に結論を言います。
これは、職員のITスキルが低いからでも、
所長先生の導入判断が甘かったからでもありません。

会計事務所には“2種類の仕事”があって、
それぞれに必要なAIの使い方がまったく違う。
この整理ができていないだけです。

今回は、その「2つの視点」と、
AI定着のための「3つのステップ」をお話しします。

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目次

会計事務所には「工場」と「サービス業」の2つの顔がある

会計事務所には工場とサービス業の2つの顔があることを示すイラスト

あなたの事務所はどちらに近いですか?

工場としての側面。
資料を回収して、入力して、チェックして、
試算表を作って、申告書を仕上げて、納品する。
決まった業務を、決まった品質で、決まった期日までに処理する。

サービス業としての側面。
顧客の経営状況を読んで、課題を言語化して、
提案して、意思決定を支援する。
知識と経験と対話で、顧客に価値を届ける。

「どちらか」ではありません。
会計事務所は、この2つの側面を同時に持つ、かなり特殊なビジネスです。

これは、業界では「製販分離」という考え方で整理されています。
「製造(入力・チェック・申告書作成)」と
「販売(面談・提案・経営支援)」を分けて考える、という発想です。

同じ「担当税理士」という人間が、
ある日は製造ラインの作業者として動き、
ある日はコンサルタントとして動いている。

この構造こそが、AIの使い方を複雑にしている本質的な理由だと私は思っています。

なぜなら、「工場に使うAI」と「サービス業に使うAI」は、
まったく別物だからです。

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AIが得意な3つのこと

AIが得意な3つのことを示す図解

2種類のAI活用を説明する前に、
「そもそもAIは何が得意なのか」を整理しておきます。

① 情報の集約・分析

大量の情報を短時間で読んで、
要点を整理するのが圧倒的に速い。

たとえば、顧問先の過去3期分の試算表をまとめて読ませて
「この会社の傾向を分析して」と投げると、
人間が1時間かけてやる作業を数十秒でやってくれます。

業界情報の収集、補助金要件の整理、議事録の要約も同じです。

ただし、「速い」と「正確」は別です。
数字の読み間違い、事実の誤認が普通に起きます。
会計事務所という「数字の正確性が命」の現場では、
AIの出力は必ず人間がチェックする。これが大前提です。

② 思考の拡張

「こういう課題があるんだけど、どんな切り口がある?」と投げると、
自分では思いつかなかった視点を返してくれることがあります。

提案書の構成を一緒に考える、
試算表のコメントのたたき台をつくる、
顧客への説明の言葉を整える。

壁打ち相手として使うイメージが近いかもしれません。

ただし、これには条件があります。
出力の質は、投げる側の質問の質に依存します。

「何かいいアイデアある?」という雑な投げ方では、雑な答えが返ってくる。
「この顧問先はこういう課題を持っていて、こういう制約がある。
どんな提案が考えられるか」
という精度の高い問いを立てられる人ほど、AIの力を引き出せます。

つまり、思考の拡張は
「使う人のスキルを底上げするツール」ではなく、
「すでに考えられる人の思考をさらに広げるツール」です。

③ 単純作業の繰り返し

同じパターンの作業を、ミスなく何度でも繰り返すのも得意です。

資料の振り分け、データの転記、定型メッセージの生成、
チェックリストとの突き合わせ。

人間がやると100件目で精度が落ちる作業でも、
AIは1件目と同じ精度でやってくれます。

この3つの中で、最も信頼できる得意分野がここです。
期待を裏切られにくく、導入効果を数字で測りやすい。

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2つの視点:「製造を改善するAI」と「アウトプットを改善するAI」

製造を改善するAIとアウトプットを改善するAIの2つの視点の図解

AIの得意なことを、会計事務所の2つの顔に当てはめると、
使い方が整理できます。

AIの得意なこと工場としての側面(製造改善)サービス業としての側面(アウトプット改善)
情報の集約・分析異常値検知・過去データとの比較試算表分析・業界動向サマリー
思考の拡張提案の切り口出し・コメント案の作成
単純作業の繰り返しOCR・自動仕訳・リマインド自動化議事録生成・定型レポート作成

「どのツールを使うか」より先に、
「この業務でAIの何の能力を借りたいか」を考える。
これだけで、選び方も使い方もぐっとクリアになります。

製造を改善するAI

業務の「速さ・正確さ・コスト」を上げることを目的とするAIです。

  • AI-OCRによるスキャンデータの自動読み取りと仕訳案の作成
  • 資料の不足検知と督促メッセージの自動送信
  • 入力データの異常値検知・過去データとの自動比較
  • 進捗管理・リマインドの自動化

ねらいはシンプルです。
同じ品質の仕事を、より少ない工数で届ける。

たとえば、ある事務所ではAI-OCRの導入で
OCRの仕訳単価を20円→1円以下に。
仕訳単価を60〜100円の価格帯で収益化しつつ、
入力工程の工数を大幅に圧縮しています。

製販分離を進めた事務所では、
記帳・入力業務を分離することで
担当者1人あたりの担当件数を20件から60件以上に増やした事例もあります。

これが「製造改善」の威力です。

アウトプットを改善するAI

顧客に渡すものの「質・深さ・スピード」を上げることを目的とするAIです。

  • 面談後の議事録・アクションリストの自動生成
  • 試算表を読んだコメントのたたき台作成
  • 業界動向・補助金情報のサマリー
  • 経営支援レポートや提案書の構成支援

ねらいはこちらもシンプルです。
担当者の知的アウトプットの質を、AIで底上げする。

ある担当者がChatGPTで試算表コメントのたたき台を作り始めたところ、
面談前の準備時間が1件あたり約20分短縮できた、という話があります。

月20件の顧問先を持っていれば、
20分×20件=月に約7時間の余白が生まれる計算です。

この7時間を「もう少し深い提案」や「新しい顧問先への対応」に使えるなら、
これはかなり大きい。

一人の担当者が、より深い提案を、
より多くの顧客に届けられるようにする。
それがアウトプット改善AIの本質です。

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なぜ「どちらのAIか」を分けて考えることが大事なのか

どちらのAIか分けて考えることが大事な理由のイラスト

この2種類は、必要な前提条件がまったく違います。
ここを混同すると、どちらも中途半端に終わります。

製造改善AIは「工程が整っていること」が前提

AIというのは基本的に、
「何かを受け取って(インプット)、何かを返す(アウトプット)」
という構造で動いています。

AI-OCRは、所定フォルダにあるスキャンデータを受け取って仕訳案を返す。
自動リマインドは、未回収の状態を検知してメッセージを送る。

でも、「資料がどこにあるか」が担当者ごとにバラバラなら、
AIに食わせるデータが準備できません。
「誰がいつスキャンするか」が決まっていなければ、
ツールが動くタイミングがない。

ある事務所では、AI-OCRを月額数万円で契約したものの、
資料回収ルールが未整備だったために
月30件の案件のうち実際にAIを通せたのは5〜6件だけ、
という状態が半年続いたそうです。

工程が整っていない事務所でAI-OCRを入れると、
「詳しい人だけが個人で使うツール」で終わります。

これをよく「うちの職員はITに弱いから」で片づけてしまいがちですが、
それはもったいない見立てです。

ツールが悪いのでも、人が悪いのでもありません。
どの業務のどの工程に差し込むか、という設計がなかっただけです。

アウトプット改善AIは「個人のハードルが低い」が「広がりにくい」

一方、アウトプットを改善するAIは、
個人が使い始めるハードルが低いという特徴があります。

ChatGPTやClaudeに「この試算表を見て気になる点をコメントして」と投げれば、
今日から使えます。
工程が整っていなくても、個人の武器として機能します。

ただし、組織全体には広がりにくいという弱点があります。

「田中さんはAIを使いこなしているけど、他のメンバーはまだ……」
という状態が長く続くのは、この理由からです。

製造改善AIは「土台(工程)がないと動かない」。
アウトプット改善AIは「個人では動くけど組織に広がらない」。

この違いを知らないまま導入すると、
どちらも「一部の人だけが使うツール」で止まります。

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うちの事務所は、どちらのAIが先か

事務所に合うAIの選び方を示すイラスト

では、自分の事務所にはどちらから取り組むべきか。
事務所の現状によって変わります。

「まず製造改善から」が向いている事務所

  • 毎月の業務量が多く、繁忙期に職員がパンクしている
  • 入力・チェック・申告書作成に時間がかかりすぎている
  • 担当者によって仕事の速さや品質にばらつきがある
  • 顧問先のITリテラシーが比較的低く、記帳代行が中心

この状態でアウトプット改善のAIを入れても、
そもそも提案に使う時間が捻出できません。

製販分離を進めた事務所では、
入力・資料整理を分離しただけで
通常期の残業が月60時間から20時間に減った事例もあります。

まず製造ラインを整えて、余白をつくることが先決です。

「まずアウトプット改善から」が向いている事務所

  • 基本的な業務フローはなんとか回っている
  • 顧問先からの相談対応・経営支援をもっと充実させたい
  • 顧問料を上げたいが、「何が変わるのか」を説明しにくい
  • 顧問先がクラウド会計を使っており、入力工数はすでに少ない

この場合、担当者の提案力・対話の質をAIで底上げすることが、
顧問料の引き上げや顧客満足度の向上に直結します。

両方詰まっている場合の順序

「製造もアウトプットも両方なんとかしたい」という場合、
組織への展開は製造改善を先に整えることをお勧めします。

製造ラインが整うと余白が生まれ、
その余白が「アウトプット改善に使える時間」になるからです。

ただし、所長先生ご自身がアウトプット改善AIを個人で使い始めることは、今すぐできます。
むしろ、所長先生が先に「これは便利だ」と体感することが、
工程整備へのモチベーションになるケースも多い。

「組織への展開」は製造改善が先。
「個人での試用」は今日から始められる。
この2つは並行して進めて大丈夫です。

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製造改善AIを機能させる3つのステップ

製造改善AIを機能させる3つのステップの図解

ここからが実践編です。

「製造改善から始めよう」と決めた場合、
次に必要なのが業務の工程を整えることです。

工程とは、
「インプット(受け取るもの)とアウトプット(渡すもの)が
決まっている仕事のまとまり」です。

たとえば月次記帳代行であれば、こう分けられます。

  • 工程1:資料回収(顧客からの資料を所定フォルダに格納し、チェックリストを完了させる)
  • 工程2:振り分け・スキャン(格納されたデータをスキャン・整理する)
  • 工程3:入力・仕訳確定(会計ソフト上の仕訳データを完成させる)
  • 工程4:レビュー(確認済みの試算表を仕上げる)
  • 工程5:報告・返却(顧客への報告を完了させる)

このように工程が明確になると、
「工程2と3の間にAI-OCRを差し込める」という判断が初めてできます。
「どのタイミングでAIを走らせるか」が、設計として見えてくるからです。

ステップ①:1つの業務を選んで工程に分解する

全部一気にやる必要はありません。
まず「繁忙期に一番詰まっている業務」を1つ選んで、
工程に分解してみてください。

月次記帳代行でも、年次決算でも、年末調整でも構いません。
「受け取る→処理する→渡す」の流れを5つ前後に分けるだけで、
今まで見えなかったボトルネックが見えてきます。

ステップ②:工程ごとに担当と期限を決める

「田中さんが空いているときにやる」ではなく、
「資料回収完了は毎月10日まで、担当:佐藤・田中」という形にします。

担当と期限が決まって初めて、
工程は「設計」から「運用」になります。

ここがいわゆる「属人化」が起きるポイントでもあります。
担当と期限を明確にすることは、
属人化の見える化にもなるのです。

ステップ③:どの工程にAIを入れるかを判断する

工程が整ったら、各工程を見渡して、
「ここはパターン処理が多い。AIが得意な部分だ」という箇所を見つけます。

判断基準はシンプルです。

  • 繰り返しが多い工程(入力・転記・チェック)→ AI向き
  • 判断が必要な工程(レビュー・顧客対応)→ 人間が主役、AIは補助
  • コミュニケーションが必要な工程(資料催促・報告)→ 定型部分はAI、個別対応は人間

この順序で進めると、
「導入したけど誰も使っていない」という失敗がほぼなくなります。

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アウトプット改善AIは、個人から始めてチームに広げる

アウトプット改善AIを個人からチームに広げる方法のイラスト

アウトプット改善のAIは、アプローチが違います。

こちらは個人が使い始めて、その効果を周囲に見せることで広がる
という進め方が向いています。

まず1人が使って「これは便利だ」を見せる

まず担当者が自分の業務の中で使ってみる。

「これ、試算表のコメントを作るの速くなったよ」
「面談前にこのお客さんの課題を整理するのに使ったら、話が深くなった」

こういう体験が積み重なると、周囲が自然に興味を持ちます。

先ほどの例で言えば、
面談準備が1件20分短縮×月20件=月7時間。
その7時間で「今までできなかった提案」を1件でも実行できたら、
周りの担当者も「自分も使ってみたい」となります。

チーム展開は「使い方の型」を標準化する

その段階で、
「じゃあうちのフォーマットに合わせたプロンプト(指示文)を作ろう」
という話になる。
事務所共通の使い方を標準化する、という流れです。

ここで一点、注意があります。

先ほど述べたように、「思考の拡張」としてのAIは、
使う人の問いの質に出力が依存します。

「いいプロンプトを作った人だけが使いこなせる」状態にならないよう、
「うちの事務所ではどんな問いを立てるか」を標準化するプロセスが、
チーム展開では重要になります。

たとえば、こんな型を事務所で共有します。

  • 試算表コメント用:「この会社は○○業で、前期比で売上が△%変動している。主な変動要因と、次回面談で確認すべきポイントを3つ挙げて」
  • 面談準備用:「この顧問先の直近3ヶ月の試算表から読み取れる課題と、経営者に伝えるべきポイントを整理して」

単にツールを共有するだけでなく、
「使い方の型」を一緒に作っていく。
これがアウトプット改善AIの定着のコツです。

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まとめ:事務所の最適解は「2つの視点」の掛け合わせで決まる

2つの視点の掛け合わせで最適解が決まるまとめイラスト

今日お伝えしたことを整理します。

会計事務所には「工場としての側面」と「サービス業としての側面」の2つがあります。
業界では「製販分離」と呼ばれる、この構造の理解がAI活用の出発点です。

AIにはそもそも3つの得意なことがあります。
情報の集約・分析、思考の拡張、単純作業の繰り返し。
ただし、集約・分析は「チェック必須」、
思考の拡張は「問いの質に依存する」という条件つきです。

AI活用も、事務所の2つの顔に合わせて2つの視点で分けて考えます。

製造を改善するAIは、業務工程を整えることで機能します。
工程が整っていない事務所に入れても、
「一部の人だけ使うツール」で終わります。

アウトプットを改善するAIは、
個人から始めて、使い方の型を標準化することでチームに広がります。
顧問料の引き上げや顧客満足度の向上に直結します。

そして、どちらを先にやるかは、事務所の現状によって変わります。

  • 業務が詰まっているなら、まず製造改善から
  • 提案力を上げたいなら、アウトプット改善から
  • 両方なら、組織展開は製造改善が先で、個人試用は今すぐ

定着のための3つのステップは、
①1つの業務を工程に分解する
②工程ごとに担当と期限を決める
③パターン処理が多い工程にAIを差し込む

「AIをあこがれで終わらせない」ための第一歩は、
この2つの視点を区別して、
自分の事務所に何が必要かを判断することです。

「うちはどちらから手をつけたらいいかわからない」という場合は、
ぜひ一度ご相談ください。
一緒に整理していきましょう。

今日も良い一日を!

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