税理士事務所の規模別・業務管理ツールの選び方【5名・10名・15名の基準】

「ツールを比較して、どれにしようか悩んでいます」
こういうご相談をいただくとき、私がまず聞き返すのはこんな質問です。
「今、事務所は何名規模ですか? 顧問先は何社ありますか?」
ツールを選ぶ前に決めるべきことがあります。それは「自分の事務所に、今何が必要か」です。
事務所の規模によって、必要な管理の深さが変わります。
小さな事務所に大きなシステムを入れても使いこなせない。
でも成長期の事務所に小さすぎるツールを入れると、すぐ限界が来る。
今回は「規模別に何が必要か」という視点から、業務管理ツールの選び方を整理します。
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まず知っておきたい「管理の3つの軸」

ツールを選ぶ前に、管理には大きく3つの軸があることを知っておいてください。
① 業務軸(タスク管理・進捗管理・生産管理)
「どの業務が、今どの状態にあるか」を把握する管理。
規模が大きくなるほど複雑になります。
② 顧客軸(顧客情報管理)
「どのお客様の、どの業務か」を顧客ごとに紐づけて管理する軸。
担当件数が増えると、ここの管理がないと業務が属人化します。
③ 人軸(リソース管理・工数管理・生産性管理)
「誰が、どれくらいの仕事を抱えていて、どれくらいの時間をかけているか」を把握する管理。
チームが大きくなると、ここが見えないと人の偏りが解消できません。
この3つのうち、今の事務所規模でどこまで必要かが、ツール選びの基準になります。
小規模であれば①の一部だけで回ります。規模が大きくなるにつれて、②③が必要になってきます。
では規模別に見ていきます。
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【5名程度まで】タスク管理で十分

この規模の特徴
所長先生1名 + パート2名、または正社員1〜2名というような構成です。 法人顧問先は30〜90社ほど。
この規模では、所長がすべての業務を直接把握できます。業務の流れもシンプルで、属人的な管理でも回ります。
「先生がすべて見えている」という状態なので、複雑な管理ツールは逆にオーバースペックです。
必要な管理レベル
タスク管理(案件単位での「やった・やらない」の管理)で十分です。
所長がタスクを把握し、パートさんに指示を出しながら業務を進める。情報共有は口頭やチャットで事足りる。
おすすめのツール
Googleスプレッドシートが最適解です。
Googleのエコシステムをメインで使っている事務所が多いですし、カレンダーやメールとの連携もしやすい。使い慣れている分、定着もしやすいです。
事務所によってはMyCOMON(マイコモン)やNotion、kintoneを使うケースもありますが、シンプルな管理であればスプレッドシートで始めるのが無難です。
限界が来るタイミング
顧問先が90社を超えたあたりから、所長が管理できる範囲を超えてきます。
メンバーが増えると、タスク単位では全体の流れを把握しにくくなります。「誰がどの業務を進めているか」の確認に時間がかかるようになったら、次のステージに移るサインです。
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【10名程度まで】進捗管理が必要になる

この規模の特徴
所長 + 正社員5〜10名 + パート3〜5名。最大15名弱の構成です。 法人顧問先は100〜300社ほど。
ここから、タスク管理だけでは対応しきれなくなります。
理由は2つです。
1つ目は、業務の種類が増えること。月次業務だけでなく、決算、給与計算、相続対応など、複数の業務が並行して走り始めます。
2つ目は、所長1人では全体を追えなくなること。マネージャーがいない場合、所長が進捗を管理する負担が増大します。
必要な管理レベル
進捗管理が必要になります。
タスク管理との違いを一言で言うと——
タスク管理は「やった・やらない」を管理するもの。 進捗管理は「業務全体の流れの中で、今どこにいるか」を管理するものです。
進捗表によって、各業務が「未着手→作業中→確認待ち→完了」のどの段階にあるかが見えるようになります。滞留を早めに発見できるのも大きなメリットです。
ツール選びのポイント
この規模では、スプレッドシートの限界が見えてきます。
進捗表が複数に分かれてくる、更新が漏れる、全体の流れが把握しにくい。こういった問題が出始めたら、業務管理ツールへの移行を検討するタイミングです。
ただし、10名前後の規模では「組織体制が整っていない状態でツールだけ入れても機能しない」というケースが多いです。
ツールより先に「誰がどの業務を担当して、どのタイミングで誰が確認するか」という役割分担を整理することが先決です。
限界が来るタイミング
10名を超えると、進捗管理だけでは業務のバランス調整が難しくなります。
「今誰が空いているか」「この案件を追加で振れるか」といった判断に時間がかかり始めたら、次の段階へ移るサインです。
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【15名以上】3つの軸をすべて管理する「生産管理」へ

この規模の特徴
所長 + マネージャー3〜5名 + 正社員15〜20名 + パート5〜10名。30名規模の組織です。 法人顧問先300社以上。
ここまで来ると、「誰かが全体を見渡している」という状態は成り立ちません。マネージャーが配置され、業務管理を分担する体制が必要です。
必要な管理レベル
生産管理という考え方が必要になります。
製造業で言う「いつ、誰が、何を、どれだけ作るか」を事前に計画して実行する管理の考え方です。会計事務所で言うと——
- 月初に業務量とリソースを算出して計画する
- 業務ごとにリソース配分を決め、負荷を分散する
- データを活用してボトルネックを特定し、業務改善を行う
進捗管理が「今どこにいるか」を把握するものだとすると、生産管理は「全体を事前に最適化する」ものです。
3つの管理軸がすべて必要になる
この規模では、先ほど紹介した3つの管理軸をすべてカバーするツールが必要です。
① 業務軸:複数の進捗表を統合管理し、どの業務がどの段階にあるかを一元管理
② 顧客軸:顧客別の業務状況を把握し、担当替えや引き継ぎをスムーズにする
③ 人軸:各スタッフの担当件数・工数・生産性を可視化し、リソース配分を最適化する
Excelやスプレッドシートではこの3軸の統合管理は難しく、
会計事務所専用の業務管理ツール、またはERPに近い機能を持つツールが必要になります。
ツール選びのポイント
この規模で選ぶべきツールの判断基準は3つです。
- 3つの管理軸(業務・顧客・人)を一元化できるか
- スタッフが日常業務の中で自然に入力できる設計か(入力が重荷になると使われなくなります)
- データをもとに意思決定できるレポート機能があるか
「とにかく機能が多い」より「現場が自然に使い続けられる」を優先して選んでください。
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規模別まとめ:どの段階にある事務所か確認してみてください
| 規模 | 顧問先数の目安 | 管理の中心 | 主なツール |
|---|---|---|---|
| 〜5名 | 30〜90社 | タスク管理 | スプレッドシート |
| 〜10名 | 100〜300社 | 進捗管理 | 業務管理ツール(移行期) |
| 15名〜 | 300社〜 | 生産管理(3軸統合) | 専用業務管理ツール |
ご自身の事務所がどの段階にあるかを確認してみてください。
「今5名だけど、3年後には10名に増やしたい」という場合は、
少し先を見越してツールを選ぶことをお勧めします。
移行のコストは、事前に設計していた方がずっと小さくなります。
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ツールを選ぶ前にもう一つだけ
最後に、私がよくお伝えしていることをお話しします。
「ツールを変えれば解決する」というご相談を多くいただきます。
でも正直なところ、ツールを変えただけで解決するケースはあまり多くありません。
管理がうまくいかない原因の多くは、ツールではなく組織の設計にあります。
役割分担が明確でない。業務フローが言語化されていない。だからツールを入れても使われない。
これは、どんな高機能なツールを入れても変わりません。
「今のオペレーションで、このツールが機能するか?」
ツールを選ぶ前に、この問いを一度立ててみてください。
オペレーションが整っていれば、ツールはちゃんと機能します。
仕組みが先、ツールは後。この順番さえ守れば、きっとうまくいきます。
今日も良い一日を!
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