採用しても楽にならない税理士事務所の本当の原因と改善策4ステップ

採用しても楽にならない事務所と楽になる事務所の決定的な違い
はじめに:「人を採用したのに、なぜか忙しいまま…」という現実
今日は少し長い記事になりますが、どうかお付き合いください。
私がこれまでお会いしてきた所長先生の多くが、一度はこう考えたことがあると思います。
「忙しいから人を採用しよう」
至極当然の判断ですよね。
顧問先が増え、業務量が限界に達し、残業が常態化する。
その解決策として採用に踏み切る。
むしろ、これ以外に何があるのか?というくらい、自然な流れだと思います。
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しかし、現実はどうでしょうか。
私はこれまで70以上の会計事務所にクラウド業務管理サービスを導入し、30事務所以上の月次支援を行ってきました。
3名規模から120名規模まで、さまざまなフェーズの事務所を見てきた中で、ある明確なパターンに気づきました。
それは、「人を増やして上手に拡大している事務所」と「人を増やしているのに上手く拡大できない、人が定着しない、所長先生が楽にならない事務所」には、決定的な違いがあるということです。
採用しても忙しさは変わらない。
むしろ、教育・相談対応・ミス対応で、既存メンバーがさらに忙しくなる。
こうした事態に陥る事務所は、決して少なくありません。
というか、正直に言うと、こちらの方が”普通”なんです。
「採用したら楽になる」と思っていたのに、実際には「採用してさらに大変になった」という現実。
これ、先生だけじゃないですよ。
私がお会いしてきた所長先生の中で、このパターンに陥った方は本当にたくさんいらっしゃいます。
だからこそ、今日はこの問題について、徹底的に掘り下げてお伝えしたいと思います。
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※この記事は過去のセミナー動画・レジュメを元に生成AIを利用して作成しています。
この記事を読んでほしい先生
・これから人を増やそうと考えている先生
・実際に人を増やしたのに、思ったほど楽にならないと感じている先生
・リーダーや中堅スタッフに仕事を任せたいのに、なかなか任せられないと悩んでいる先生
・「自分がやった方が早い」と思いながら、毎日仕事を抱え込んでいる先生
・採用しても人が定着しなくて困っている先生
もしどれか一つでも当てはまるなら、この記事はきっとお役に立てると思います。
少し長いですが、お時間のあるときにじっくり読んでいただけると嬉しいです。
では、いきましょう!
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第1章:楽になる事務所と楽にならない事務所「5つの違い」

まず最初に、大前提のお話をさせてください
「人を増やしても楽にならない」
この問題、先生の努力不足ではありません。
能力の問題でもありません。
これは、仕組みの問題なんです。
ここ、すごく大事なので、もう一度言いますね。
「人を増やしても楽にならない」のは、先生が頑張っていないからではなく、仕組みの問題なんです。
一人で開業し、事務所をゼロから作り、お客さんに喜ばれて事務所が拡大している。
それは本当に”頑張っている素晴らしい先生”だと思います。
だからこそ、人が増えても同じやり方で頑張り続けてしまうリスクもあります。
税理士先生の平均の事務所規模は4.6人だそうです。
この人数だと、管理ツールがなくても、顧客台帳がなくても、事務所の標準業務が決まってなくても、代表が好きに契約を受注しても、どうにかなると思います。
でも、お客さんに喜ばれて、紹介が増えて、10名事務所になったとき、標準的な仕事も決まってなくて、個々が好きに仕事を進めていたら?
「あのタスクやった?」
「あの社長の電話誰が対応した?」
「進捗管理表更新した?」
みたいな、管理のための声掛けは増えていきますし、
「なんであのタスクが漏れたの?」
「いきなり社長からクレームの電話が来たよ」
みたいな、仕事を個人任せにすることで、抜け漏れがでてお客様に迷惑をかけたり、
「自分だけ仕事が多すぎます」
「仕事が多くてもう一杯です。辞めたいです」
みたいな、”誰か”に負担が偏り、その人が退職になることも増えていってしまうのではないでしょうか。
私自身、仕組みが整理されていない状態での急拡大により、事務所が”荒れた”事例をたくさん見てきました。
仕事の負荷に耐えられず、リーダーに任命した次の週から、“家出”してしまった職員さんもいました。
その人の”隠してた仕事”の引継ぎのために、寝ないで仕事をしている職員さんもいました。
これは、その職員さんが悪いわけではありません。
仕組みがなかったから、そうなってしまったんです。
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では、何が違うのか?5つの違いを徹底解説します
私がこれまで見てきた「楽になる事務所」と「楽にならない事務所」の違いは、大きく分けて5つあります。
一つひとつ、詳しくお伝えしていきますね。
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違い①:採用前に「渡す仕事」が決まっているかどうか
これ、すごく大事なポイントなんです。
楽にならない事務所は、こんな感じです。
・「忙しいからとにかく採る」が先に来ている
・ポジションごとの役割やゴールが明文化されていない
・入社後の仕事は、その時々の状況に応じて決まる
・「とりあえずこの顧客持って」「これもお願い」で仕事が振られる
この状態だと、何が起きるかというと…
所長やベテランのToDoリストは一向に減らないんです。
「なんとなく手伝ってもらっている」感覚が続きます。
新人から見ても「自分は何をどこまでできればいいのか」が分からず、不安と戸惑いを抱えたまま日々を過ごすことになります。
先生からすると「せっかく採用したのに、思ったほど助けにならない」と感じてしまう。
新人からすると「何をしていいかわからない、自分は役に立てているのか不安」と感じてしまう。
お互いにとって、とてももったいない状態ですよね。
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一方で、楽になる事務所はこうです。
・採用前に「このポジションに渡す具体的な仕事リスト」が作られている
・募集要項にも具体的な業務内容が反映されている
・「入社3か月でここまで任せる」「半年後にはこの工程にステップアップ」というロードマップが共有されている
・新人・中堅本人も「次に何をできるようになれば役に立てるか」が見えやすい
・所長やベテランが「本来は手放したい仕事」「時間単価が合っていない仕事」を明確に棚卸ししている
この状態だと、新人は「自分が何を目指せばいいか」が明確になります。
所長先生も「この仕事をこの人に渡す」という計画があるから、採用後に「何を任せよう?」と迷うことがありません。
結果として、採用が「所長の負担軽減」に直結するんです。
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今からできること:
次の採用・配置換え予定者について、「すぐ渡す仕事3つ」「半年後に渡したい仕事3つ」を書き出してみてください。
所長先生の1週間のToDoから「繰り返し型で他人に移しうる仕事」を抜き出して、渡す候補リストを作成することから始められます。
これだけでも、「何のために採用するのか」がグッと明確になります。
「忙しいから採用」ではなく、「この仕事を渡すために採用」という考え方に変わるはずです。
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違い②:業務が「人基準」か「工程基準」か
これもよくあるパターンです。
楽にならない事務所の特徴は…
・顧客管理が「顧客○○社=Aさん担当」という”顧客丸抱えスタイル”だけで設計されている
・「決算」「記帳」といったざっくりした単位で仕事を持っている
・どこを切り出せるか見えない
・一人が退職・休職すると、その人が持っていた顧問先がまとめて宙に浮く
・緊急引き継ぎが常態化する
・人が増えても「結局1社丸ごと持たせないと仕事にならないよね」となり、育成が一気に難しくなる
この「顧客丸抱えスタイル」、多くの事務所で採用されていますよね。
というか、おそらく95%以上の会計事務所がこのスタイルだと思います。
そして、このスタイル自体が悪いわけではありません。
むしろ、顧客との関係性が深まりやすい、担当者の責任感・当事者意識が育ちやすい、シンプルな構造で管理しやすい(小規模時)、というメリットもあります。
ただし、5名を超えると所長のマネジメント負荷が急増します。
なぜか?
全員が「それぞれのやり方」で「それぞれの顧客」を「丸抱え」しているから、所長が全員の状況を把握するのがどんどん難しくなるからです。
さらに、担当者が休むと顧客対応が止まる。
育成・引き継ぎが属人的になりやすい。
という限界が出てきます。
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楽になる事務所は、こうなっています。
・月次記帳を「資料回収→整理→入力→チェック→報告→資料返却」のように工程に細かく分解している
・工程を説明すれば他の人の案件でも実行できるようになっている
・工程ごとに基本マニュアルがある
・顧客単位の責任は残しつつも、実務負担は工程で分散される
・担当者の不在時にもチームでカバーできる体制が整っている
この「工程基準」の考え方があると、何が変わるかというと…
「新人には入力の工程から任せよう」
「パートさんには資料整理を担当してもらおう」
「チェックは先輩社員が担当しよう」
という形で、仕事を”切り出して”渡せるようになるんです。
「1社丸ごと任せられる人材」を待つ必要がなくなります。
即戦力の経験者が採用できなくても、工程ごとに分けて任せれば、新人やパートさんでも戦力になれるんです。
これ、採用市場を考えると、ものすごく大きなメリットですよね。
だって、「月次監査から決算・申告まで一人でできる経験者」なんて、転職市場にほとんどいないですから。
私も以前「32歳、会計事務所経験8年、月次監査顧問先40社、チームリーダー経験あり」なんて人材を探したことがありますが、転職サイトに”存在しない”人なんじゃないかなと思いました。(笑)
初代ポケモンのミュウみたいな。
そんな人材を待っていたら、いつまでも採用できません。
だから、「工程で分けて任せる」という発想が大事なんです。
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今からできること:
顧問先1社を具体的に選び、実際にやっている作業を時系列で書き出して「工程リスト」を作成してみてください。
その工程リストに、「今誰がやっているか」「理想的には誰にやってほしいか」をペンで書き込んでみてください。
この「今」と「理想」の差分を見ることで、改善の糸口が見えてきます。
「あ、この工程はパートさんでもできるかも」
「この工程は先輩社員がやった方がいいな」
「ここは所長じゃなくてもいいはずだ」
という発見があるはずです。
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違い③:情報・進捗の「置き場所」が決まっているかどうか
これ、地味だけどすごく大事です。
楽にならない事務所は…
・顧客情報が、担当者の頭の中・ローカルPC・メール・個別チャットなどにバラバラに分散している
・「あの資料どこ?」「今どこまで進んでる?」と聞かれるたびに、複数の場所を探すのが日常
・同じ質問を所長やリーダーが何度も聞かれる
・聞く側も「何度もすみません」とストレスを感じている
・「あの顧客の件、どうなってる?」と聞いたら「少々お待ちください」と言われて3分待たされる
これ、「管理のための声掛け」になっちゃってるんですよね。
「あのタスクやった?」
「あの社長の電話誰が対応した?」
「進捗管理表更新した?」
こういった声掛けって、職員さんのモチベーションが上がらないと思います。
それよりは、「〇〇社長の仕事ぐっじょぶ!」とか「あの仕事率先してやってくれて助かった!」とか「こんな風にスキルアップしよう!」とか「こんな風に事務所を良くしていこう!」みたいな会話が事務所に溢れればいいのにと思います。
でも、情報の置き場所が決まっていないと、「管理のための声掛け」が増えてしまうんです。
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楽になる事務所は…
・ルールがシンプルに決まっている
・たとえば「タスク・進捗:業務管理ツール」「連絡・相談:チャットワーク」「ファイル:Google Drive」といった具合
・「この業務の現在地はまずここを見る」という“一次情報の置き場所”が全員に共通言語として浸透している
・所長・リーダーが進捗を確認するときも、特定ツールを開けば全体が見える
・個別チャットに頼らない
・「〇〇の件どうなってる?」と聞かなくても、ツールを見れば分かる状態
この状態だと、「管理のための声掛け」が激減します。
所長先生も「聞く」時間が減りますし、職員さんも「聞かれる」ストレスが減ります。
お互いにとってハッピーですよね。
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今からできること:
「この案件の進捗はどこを見れば分かる?」と複数人に聞いたとき、答えが揃うかバラバラかを確認してみてください。
もし答えがバラバラなら、それが「情報の置き場所が決まっていない」という証拠です。
まず1つ、「進捗の一次情報はこのツールに統一する」という仮ルールを決め、期間を区切って試してみることをお勧めします。
最初は完璧じゃなくていいんです。
「とりあえず、ここに書く」というルールを作って、やってみる。
うまくいかなかったら、修正する。
この繰り返しで、少しずつ「情報の置き場所」が固まっていきます。
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違い④:権限移譲と育成が「場当たり」か「段階設計」か
これも本当によくあるパターンです。
楽にならない事務所は…
・育成=「できる人の横につける」
・任せ方=「忙しくなったタイミングで、その場の仕事を投げる」
・どこまで任せてよいのか、どこから先は所長・リーダーが見るべきなのかが明文化されていない
・本人も上司も、「どこまでできれば一人前か」を感覚で判断している
・評価の基準があいまい
・結果として、難しい・責任の重い部分だけはいつまでも所長が抱え続ける
・「最後は全部所長行き」の構造が続く
この状態、すごくもったいないんです。
なぜかというと、せっかく優秀な職員さんがいても、「どこまで任せていいか分からない」から、結局所長が抱え込むことになってしまうんです。
私が士業事務所の中堅リーダーさんのお話を伺うと、こんなお悩みが出ることが多いです。
・非常に細かい数字管理を求められる
・自分の業務は減っていないのに、チームメンバーの管理の仕事のサポートまであって時間的に余裕がない
・そもそもリーダーとして何をしたらいいかわからない
そして、半年もすると、壁にぶつかって、「リーダーを辞めたい。自分の仕事とお客さんに集中したい」という結論になるようです。
このタイミングで、所長先生が、「よし、じゃあリーダーや辞めて、1人の仕事に集中してくれ!」と対応するのは、もったいないなと思ってしまいます。
もともとプロフェッショナル志向の方が暫定的にリーダーの役割を担っているならともかく、そもそもは、先生が依頼をし、本人も同意して、リーダーになったはずです。
にも拘わらず、リーダーの”壁にあたって自信をなくしたからリーダーを辞めたい”という相談に所長先生がそのまま応えてしまったら、組織としても、貴重なリーダーが減ることになりますし、本人にとっても、失敗経験と苦手意識しか残らないような気がします。
これはすごいもったいないことだと思います。
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楽になる事務所は…
・新人〜3年目/3〜5年目/5年目以降など、経験段階ごとに任せる範囲が「業務リスト」で定義されている
・権限移譲の前に、必要なチェックリストやテンプレートが整備されている
・任せても事故になりにくい状態を作っている
・評価や面談の場では、「次はここまで任せたい」「このラインを超えたら昇格」といった具体的な話ができている
この状態だと、職員さんも「次に何をできるようになればいいか」が明確になります。
「頑張ったら報われる」という感覚が持てるんです。
そして、所長先生も「この人にはここまで任せられる」という基準があるから、安心して仕事を渡せます。
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今からできること:
「新人〜3年目」に任せる業務と、「必ず上長が最終チェックする業務」をA4一枚に書き出してみてください。
一人のスタッフを例に、「現状任せていること」「本当は任せたいがまだ任せられていないこと」を並べて整理することから始められます。
これをやるだけで、「何を任せるか」の優先順位が見えてきます。
「この人には、次にこの業務を任せよう」という計画が立てられるようになります。
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違い⑤:所長の役割が「プレイヤー」か「設計者」か
最後はこれです。
これ、一番大きいかもしれません。
楽にならない事務所の所長先生は…
・難しい決算・申告・税務相談・クレーム対応など、重たい案件をほぼすべて抱え込んでいる
・1日のスケジュールが顧客対応と緊急対応で埋まっている
・業務設計・組織設計に使える時間がほとんどない
・「自分がやった方が早い」「任せるのが大変」と感じ、結局自分で処理してしまう場面が繰り返される
・スタッフも「困ったら所長に投げれば何とかしてくれる」と依存する構造ができあがっている
この状態、先生は本当にお忙しいと思います。
毎日、フル回転で働いているはずです。
でも、この状態が続く限り、人を増やしても楽にはなりません。
なぜか?
所長が「プレイヤー」として働き続けている限り、所長のキャパが事務所のキャパの上限になってしまうからです。
所長が対応できる案件数、所長が見られる職員の数、所長がチェックできる仕事の量。
すべてに上限があります。
人を増やしても、その人たちの仕事を最終的に「所長がチェックする」構造になっていたら、所長の負担は減りません。
むしろ、増えます。
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楽になる事務所の所長先生は…
・所長の優先順位が「構造づくり>プレイヤー業務」になっている
・顧客も、「所長が持ち続けるべき案件」と「幹部・担当に移す案件」を分けている
・リーダー層や経験者が、日常の判断・顧客対応・トラブル対応の多くを引き受ける体制が整っている
・所長自身が「自分の役割は、現場の穴埋めではなく、仕組みの更新と大きな意思決定」と言語化できている
この状態になると、所長先生は「設計者」としての役割に集中できます。
・事務所の仕組みをどう改善するか
・どんな人材を採用するか
・どんなサービスを提供するか
・どんな組織にしていくか
こうした「未来を作る仕事」に時間を使えるようになります。
結果として、事務所全体の成長スピードが上がるんです。
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今からできること:
週に1コマ(1時間でも可)、「現場に入らない設計タイム」をカレンダーに入れ、他の予定を後から入れないようにしてください。
これ、最初は「そんな時間ない」と思うかもしれません。
でも、この1時間を確保しないと、いつまでも「プレイヤー」から抜け出せません。
そして、「本来は他の人ができるはずなのに自分がやっている仕事」をリストアップし、優先順位をつけてみてください。
「所長がやる必要がない仕事」を見つけて、少しずつ手放していく。
これが「設計者」への第一歩です。
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5つの違いをまとめます
ここまでお読みいただいて、いかがでしょうか?
5つの違いをまとめると、こうなります。
楽にならない事務所:
- 採用前に「渡す仕事」が決まっていない
- 業務が「人基準」(顧客丸抱え)
- 情報・進捗の「置き場所」がバラバラ
- 権限移譲が「場当たり」
- 所長が「プレイヤー」
楽になる事務所:
- 採用前に「渡す仕事」が明確
- 業務が「工程基準」で分解されている
- 情報・進捗の「置き場所」が統一されている
- 権限移譲が「段階設計」されている
- 所長が「設計者」
この違い、先生の事務所はどちらに近いでしょうか?
もし「楽にならない事務所」の特徴に当てはまる部分があっても、落ち込む必要はありません。
これは先生の能力の問題ではなく、仕組みの問題だからです。
仕組みは、変えられます。
そして、仕組みを変えれば、結果も変わります。
では、具体的にどう変えていけばいいのか?
次の章でお伝えしていきます。
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第2章:現実的な3つの解決策 ── どれを選ぶかで、その後の展開が大きく変わります

5つの違いを理解したところで、次は「ではどうすれば良いのか」という現実的な解決策についてお伝えします。
ここが大事なんですが…
忙しさを本気で変えようとすると、取りうる解決策は大きく分けて3つに集約されます。
どれを選ぶかによって、その後の展開が大きく変わってきます。
それぞれメリット・デメリットがありますので、先生の事務所の状況に合わせて検討してみてください。
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解決策①:高スキル人材を高報酬で採用する
やること:
決算・税務相談・顧客対応まで一通りの業務を高いレベルでこなせる「高スキル人材(年収800万円クラス以上)」を採用します。
所長や古参メンバーが抱えている重たい顧客・難易度の高い案件を優先的に引き継いでもらいます。
小規模事務所(〜5名)の場合は、「所長+準パートナー(身内・旧知の仲間など)」の少数精鋭体制で、高単価顧客を2人で支えるモデルにします。
中〜大規模事務所では、部門長・プレイングマネージャーとしてチーム上段を厚くし、既存オペレーションを基本的に変えずに現場を回します。
ポイント:
業務フローや体制を大きく組み替えず、「人的リソースの質」を一気に引き上げて所長の負荷を軽くするアプローチです。
「構造改革」ではなく「上に優秀な人を足す」という考え方です。
メリット:
・所長が抱えていた重たい案件をまとめて移管できる
・若手の実務相談窓口ができ育成スピードが上がる
・高単価顧客を維持しつつ新規獲得もしやすくなる
・仕組みを変えなくても、即効性がある
デメリット:
・採用市場に候補者がほとんどおらず実現しにくい
・その人に業務が集中し「第二の属人化」を生みやすい
・業務設計が変わらず本質的な構造改善になりにくい
・その人が辞めたら、また振り出しに戻る
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正直に言いますね。
この「高スキル人材を採用する」という解決策は、ハイリスク・ハイリターンです。
採用市場にはそもそも該当人材がほとんどいません。
「32歳、会計事務所経験8年、月次監査顧問先40社」みたいな人材、本当にいないんです。
現実的には、元同僚・友人・身内・準パートナー候補など縁故に近いルートでしか成立しづらいと思います。
「たまたま知り合いに、優秀で独立志向のない経験者がいた」というラッキーがないと、なかなか実現しません。
もしそういう人が身近にいるなら、ぜひお声がけください。
でも、そうでない場合は、別の解決策を考えた方がいいかもしれません。
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解決策②:クライアント構成(ランク)を変える
やること:
今いるスタッフと今後採用できる人材のスキルレベルに合わせ、顧客をランク分けします。
・Aランク:高度税務・複雑案件
・Bランク:標準フローで回る中小法人中心
・Cランク:小規模・低単価
Aランク比率を少しずつ下げてB〜Cランクを増やし、一部Aランクには値上げ交渉や卒業も提案しながら、「今いる・今採れる人材で安定して回せる顧客分布」に組み替えていきます。
ポイント:
「顧客側を調整する」ことで案件難易度と現場の処理能力を揃えていくアプローチです。
標準フローが活きる領域の顧客を増やして、マニュアルやチェックリストの効果を高めます。
メリット:
・標準パターンの顧客が増え、教育と引継ぎが格段に楽になる
・イレギュラー案件が減り、ミスやトラブル発生率が下がる
・スタッフが「仕事が終わる感覚」を得やすく定着しやすい
・新人でも早く戦力化できる
デメリット:
・高単価の難易度高い案件が減り、利益が目減りしやすい
・顧客選別や値上げ交渉に精神的な負担とストレスがかかる
・顧客構成を変えても業務設計の課題はそのまま残りやすい
・「お客さんを切る」ことに抵抗を感じる先生も多い
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この解決策は、「どの顧客を残し、どの顧客に値上げ・卒業をお願いするか」という判断が必要になります。
短期的には売上の目減りや人間関係のストレスを伴いますし、所長の覚悟とコミュニケーション力が問われます。
「長年お付き合いしてきた顧客に値上げを言うのは気が引ける…」
という気持ち、よく分かります。
でも、現状のまま無理を続けて、職員さんが疲弊して辞めてしまったら、結局その顧客にも迷惑をかけることになりますよね。
「お客様に迷惑をかけない」ためにも、事務所のキャパシティに合った顧客構成にしていくことは、決して悪いことではないと思います。
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解決策③:業務を設計し直して、分業で回る構造をつくる
やること:
事務所の仕事の流れそのものを見直します。
「標準業務を定義する→標準業務を工程に分解する→工程ごとに役割(窓口・製造・レビュー等)を載せる」という3ステップで、顧客丸抱え型から工程ベースで仕事が流れる分業体制へ組み替えます。
売上の柱となる標準業務について、どこまでを標準サービスとするかを言語化し、「資料回収・整理・入力・チェック・報告・資料返却」などの工程ごとにインプット・アウトプット・完了条件を整理し、その工程をどの役割の人が担当するかを明確にします。
ポイント:
人材レベルや顧客レベルではなく、「事務所の構造そのものを変える」アプローチです。
一度型をつくれば、人数やメンバーが変わっても応用しやすく、再現性・持続性の高い解決策です。
メリット:
・人が増えたときにどの工程から仕事を渡すかが明確になる
・高スキル人材は判断や提案業務に集中し生産性が上がる
・新人・パートにも任せやすい工程がはっきり見えてくる
・教育・評価・引継ぎの基準が揃い属人化が大きく減る
・「採用市場にいない人材」を待たなくてよくなる
デメリット:
・設計や議論に時間がかかり、短期的には負荷が増えやすい
・所長自身がやり方を言語化し手放す覚悟が求められる
・成果が見えるまでタイムラグがあり、我慢の期間が必要
・職員さんの巻き込みや合意形成が必要
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この解決策は、「今いる人でなんとか回す」発想を離れ、「どんな人が入ってきても、この型に沿って育てれば戦力化できる」状態を目指します。
だから、所長やリーダーが自分の業務を棚卸しして言語化し、手放していくプロセスを伴います。
正直、一番大変です。
でも、一番本質的です。
私がご支援している事務所でも、この「業務を設計し直す」という解決策を選択されることが多いです。
時間はかかりますが、一度仕組みができれば、その後は「仕組みが人を育てる」状態になります。
採用のたびに「どう教えよう」と悩む必要がなくなります。
退職があっても「誰でも引き継げる」状態になります。
長期的には、これが一番「楽になる」解決策だと思います。
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3つの解決策、どれを選ぶべきか?
ここまで3つの解決策をお伝えしてきましたが、「結局どれを選べばいいの?」と思われたかもしれません。
正直に言うと、事務所の状況によって変わります。
たとえば…
「たまたま優秀な知り合いがいて、一緒にやってくれそう」という状況なら、解決策①が最短ルートかもしれません。
「顧客構成が明らかに偏っていて、特定の難易度高い案件に引きずられている」という状況なら、解決策②から始めるのがいいかもしれません。
「長期的に安定した組織を作りたい、採用しても教育できる体制を整えたい」という状況なら、解決策③が本命になります。
そして、多くの場合は「組み合わせ」になります。
・解決策③で業務を設計し直しながら
・解決策②で顧客構成も見直し
・運よく解決策①の人材が見つかれば、その人をリーダーにする
こんな感じで、複数の解決策を組み合わせて進めることが多いです。
大事なのは、「どれか一つだけで解決しようとしない」こと。
状況に応じて、柔軟に組み合わせていくことが大切です。
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第3章:組織形態の選択 ── 文鎮型か、製販分離型か

解決策③の「業務を設計し直す」を選択した場合、まず考えるべきは組織形態の選択です。
会計事務所の組織形態は、大きく分けて「文鎮型」と「製販分離型」に分類できます。
ここ、ちょっと専門的な話になりますが、とても大事なところなので、しっかりお伝えしますね。
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文鎮型組織とは
1人の所長の下に、複数のスタッフがフラットに並ぶ形態です。
各スタッフが顧客を丸抱えし、資料回収から決算・申告まで一貫して担当します。
イメージとしては、所長先生が「文鎮」のように上にいて、その下にAさん、Bさん、Cさんがそれぞれ30社ずつ担当している、という感じです。
文鎮型の中にも、いくつかのバリエーションがあります。
・ペア・トリオ型:監査担当者に1名ないしは2名のアシスタントをつけて担当件数を増やす、もしくは記帳などの簡単な業務を分担できるようにする形態
・完全自計化型:顧客側にクラウド会計を入れて、入力は顧客が行い、事務所はチェックと決算・申告を担当する形態
・カオス型:誰が何をやっているか分からない状態…(笑)
おそらく95%以上の会計事務所は、この文鎮型のどれかに該当すると思います。
文鎮型のメリット:
・顧客との関係性が深まりやすい
・担当者の責任感・当事者意識が育ちやすい
・シンプルな構造で管理しやすい(小規模時)
・「自分の顧客」という意識が持てる
文鎮型の限界:
・5名を超えると所長のマネジメント負荷が急増
・担当者が休むと顧客対応が止まる
・育成・引継ぎが属人的になりやすい
・「1社丸ごと任せられる人材」を採用しないと回らない
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製販分離型組織とは
「販売(フロント)」と「製造(バック)」を分離した形態です。
監査担当者(フロント)が顧客窓口・提案・報告を担い、入力担当者(バック)が記帳・チェック・申告作成を担います。
製販分離型にも、いくつかのバリエーションがあります。
・事務所内分業:同じ事務所内で、フロントとバックを分ける形態
・リモート・外注型:バックオフィス業務をリモートスタッフや外注先に任せる形態
・別拠点工場型:バックオフィス業務を別拠点(人件費の安い地域など)に集約する形態
製販分離型のメリット:
・各役割が専門業務に集中でき生産性が上がる
・新人・パートに任せやすい工程が明確になる
・人が増えても型に沿って育成できる
・採用市場で「経験者」を待たなくてよくなる
・担当者が休んでもバックオフィスは止まらない
製販分離型の課題:
・体制移行に時間と労力がかかる
・情報連携の仕組みが必要
・担当者の「やりがい」設計が必要
・「自分の顧客」という意識が薄れるリスク
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事例:製販分離を実現した2社の比較
ここで、製販分離を成功させた2社の事例をご紹介します。
規模は異なりますが、それぞれの形で成果を出しています。
税理士法人ベリーベスト(埼玉・112名)
製販分離を徹底し、営業力と生産性を両立した大規模事務所です。
製造部門で500社を分業処理し、シニアスタッフが最終チェックを行う体制を構築しています。
顧客単価は製販分離後に約2倍に上昇しました。
特徴的なのは「二極化戦略」です。
・高単価顧客:監査担当が重点支援(80万→120万円)
・低単価顧客:完全合理化プラン(窓口担当なし、期限厳格化、質問はフォーム対応、40〜60万円)
と、明確に分けています。
監査担当は20社前後を担当し、売上1,400〜1,800万円を担います。
パート採用を積極活用し、ベッドタウン拠点で大量採用を実現。
福利厚生・柔軟勤務・定期面談・給与見える化で100名超規模でも離職を防止しています。
ヤマザキ税理士事務所(開業3年・13名)
記帳代行中心の一律サービスで標準化を徹底した中小規模事務所です。
入力担当を主軸にしたチーム制で、監査担当(所長)は最小化し、徐々に担当者へ移行しています。
入力業務をチーム制で分担し、誰でも対応可能な体制を構築。
試算表を事前送付し決算説明時に再確認する二重チェック体制で品質を担保しています。
不足資料は入力担当が顧客へ確認する体制で、顧客接点も強化しています。
動画マニュアルで学習を標準化し、おもてなし研修で接客スキルを強化。
将来的には入力担当が決算説明まで担う構想を持っています。
この2社、規模もアプローチも違いますが、共通しているのは「工程ごとに役割を明確にしている」ということです。
「誰が何をするか」がハッキリしているから、人が入れ替わっても回るんです。
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どちらの組織形態を選ぶべきか?
ここで大事なのは、「どちらが正解」ということではないということです。
文鎮型にも良いところがあります。
製販分離型にも課題があります。
先生の事務所の状況、目指す方向性、顧客構成、スタッフ構成によって、最適な形態は変わってきます。
たとえば…
「高単価顧客が多く、顧客との深い関係性が売り」という事務所なら、文鎮型をベースにしながら、一部の業務だけを分離する形が良いかもしれません。
「標準的な記帳代行・月次監査が中心で、顧客数を増やしたい」という事務所なら、製販分離型に移行することで生産性を大きく上げられるかもしれません。
「今は5名だけど、将来的には20名規模を目指したい」という事務所なら、今のうちから製販分離を見据えた設計をしておくと、後からの移行が楽になります。
大事なのは、「今の延長で何となく拡大する」のではなく、「どんな組織形態を目指すか」を先に決めることです。
そうすれば、採用も、教育も、顧客対応も、すべてが「目指す形態」に向かって進んでいきます。
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第4章:組織ステージ別の課題と設計 ── 各フェーズで何が起きるかを知っておく

ここまでお読みいただいて、「理屈は分かったけど、うちの事務所は何から始めればいいの?」と思われたかもしれません。
事務所の規模によって、直面する課題は異なります。
ステージ別に整理してみましょう。
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開業〜5名規模
この段階での主な課題:
・顧客獲得・集客ルートの構築
・契約書の整理・基本業務の決定
・パートの雇用・業務分担
・正社員雇用・業務管理と進捗管理
・労務環境の整備
陥りやすいパターン:「頑張る所長+社員卒業モデル」
自分がひたすら仕事を持つことで疲弊するか、社員の入退社を繰り返すことで結果5名程度で安定することが多いパターンです。
この段階では「なんとなく」で回せてしまうため、業務設計の必要性を感じにくいのが落とし穴です。
税理士先生の平均の事務所規模は4.6人だそうです。
この人数だと、管理ツールがなくても、顧客台帳がなくても、事務所の標準業務が決まってなくても、代表が好きに契約を受注しても、どうにかなると思います。
でも、この「なんとなく回せる」状態が、実は次のステージへの壁になります。
「なんとなく」でやってきたから、「どうすれば次のステージに行けるか」が分からないんです。
この段階でやっておくべきこと:
この時期から「渡す仕事リスト」や「工程の分解」を意識しておくと、10名規模への移行がスムーズになります。
たとえば、パートさんを雇うときに「この工程をお願いしよう」と明確にしておく。
正社員を採用するときに「入社3ヶ月でここまで任せよう」と計画しておく。
こうした「ちょっとした言語化」の積み重ねが、後から大きな差になります。
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5名〜10名規模
この段階での主な課題:
・集客ルートの複数構築
・リーダー・No.2の任命
・組織図の作成・役職設定
・キャリアパスの整理
・業務の標準化・マニュアル化
陥りやすいパターン:「リーダーなしの限界」
中堅社員が2〜3名活躍するものの、その後のメンバーが育成されず、5年以内の社員の定着率が低い状態が続きます。
そのまま事務所自体が高齢化することが多いパターンです。
5人までは「なんとなく」で回せても、10人を超えると設計・分業・ルール化が必須になります。
組織の在り方を「作る」フェーズに入るのですが、それを知らないまま人を増やすと、「管理できない」「利益が出ない」「辞める」などの問題が噴出します。
私がよく見るのは、こんなパターンです。
社員が定着しない → 所長からの圧がくる → とにかく自分で仕事を抱える → 一時的に事務所が安定する → 成長した社員がリーダーの背中を見て、辞めていく(耐えられない、そもそも給与安い) → 疲弊したリーダーが退職することで組織が崩壊する
「負のサイクルとリーダーの挫折」です。
これ、本当にもったいないんです。
リーダーになった人も、辞めていく若手も、みんな最初は「この事務所で頑張りたい」と思っていたはずなんです。
それが、仕組みがないから、どんどん疲弊して、辞めていく。
この段階でやっておくべきこと:
・リーダーの役割を明文化する
・「リーダーとして何をすればいいか」を教育する
・所長がすべてを見る体制から、リーダーを介した体制へ移行する
・業務の標準化・マニュアル化を進める
リーダーになった人が孤独にならないように、しっかりサポートすることが大切です。
私自身、リーダーを経験して感じたのは、失敗をするから成長し、適応するのであって、最初からすべてがうまく回せるリーダーはいないということです。
そして、そもそものリーダーの役割などを勉強してないのに、どのような対応・マインドセットが適切かを知らないと、業務に支障をきたすことも多く、それで上司に叱咤されると、上にも下にも相談できず、中間管理職として本当に孤独になるということです。
リーダーが壁にぶつかったとき、「じゃあリーダー辞めていいよ」ではなく、「どうすれば乗り越えられるか」を一緒に考えてあげてほしいなと思います。
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10名〜20名規模
この段階での主な課題:
・チーム間の利害関係調整
・各プロジェクト運営による次世代リーダーの育成
・評価制度の整備
・情報共有の仕組み強化
・部門間の連携
この段階では、所長が直接全員を見ることが物理的に難しくなります。
「3階層組織」への移行が必要で、リーダー層の育成が成否を分けます。
所長 → リーダー → メンバー
という3階層で、リーダーがメンバーを見て、所長はリーダーを見る、という構造です。
この構造がうまく機能すれば、所長は「設計者」としての役割に集中できます。
逆に、この構造がうまくいかないと、「所長がすべてを見る」状態に戻ってしまい、10名以上いても所長が忙しいまま、という状態になります。
この段階でやっておくべきこと:
・リーダー層を育てる(単なる「優秀なプレイヤー」ではなく、「チームを率いる人」として)
・評価制度を整備する(「何をすれば評価されるか」を明確にする)
・情報共有の仕組みを整える(リーダーが把握した情報を、所長にも適切に共有する)
・チーム間の連携ルールを作る(チームごとに閉じないようにする)
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なぜ「次のステージ」に行けないのか
多くの事務所が直面する壁には、共通する理由があります。
問題1:「今の延長」で拡大できない
10人を超えると設計・分業・ルール化が必須ですが、組織の在り方を「作る」フェーズに入ることを知らないまま人を増やすと問題が噴出します。
「5人でうまくいったやり方」を「10人でもやろうとする」と、破綻するんです。
問題2:モデルケースがない
自分より先を走っている事務所を知らない、組織が10人を超えたときにどんな問題が起きるか想像できない状態です。
「あの人がやってるから自分もできそう」という参照先がない世界を進む必要があります。
周りの税理士先生も、同じような規模で、同じような悩みを抱えていることが多いですよね。
「成功した事務所」の話を聞く機会が少ないんです。
問題3:メンター・相談先がいない
経営の悩みを相談できる相手がいない、税務・会計の専門性は高くても組織づくりは未経験という状態です。
だからこそ、「自分のやり方が合っているのか」確信が持てないのです。
だからこそ、私はこうした情報をお伝えしたいと思っています。
「先を走っている事務所がどうやっているか」
「組織が大きくなるとどんな問題が起きるか」
「どう対処すればいいか」
こうした情報を共有することで、少しでも「参照先」になれればと思います。
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第5章:業務設計の7つのステップ ── 具体的にどう設計するか

製販分離や分業体制を実現するためには、業務設計が欠かせません。
設計の全体像を7つのステップで整理します。
ここ、少し細かい話になりますが、とても大事なところなので、しっかりお伝えしますね。
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ステップ①:標準業務の定義
まず、事務所で提供している業務を分類し、「何をやっているのか」を明文化します。
「記帳代行」「月次監査」「決算申告」「年末調整」「給与計算」「社会保険手続き」など、サービスの単位を定義します。
これ、「そんなの当たり前じゃん」と思うかもしれませんが、意外と「何をサービスに含んでいるか」が曖昧な事務所は多いです。
たとえば、「月次監査」といっても…
・毎月訪問するのか、オンラインなのか
・試算表を報告するだけなのか、経営アドバイスまで含むのか
・資料回収は事務所がやるのか、顧客が送ってくるのか
こうしたことが、顧客ごとにバラバラになっていることがあります。
「標準業務の定義」とは、「うちの事務所の〇〇というサービスは、こういう内容です」を明確にすることです。
これがないと、次のステップに進めません。
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ステップ②:工程の分解
定義した標準業務を、工程ごとに分解します。
たとえば「記帳代行」であれば、
「資料回収→整理→入力→チェック→納品」
といった工程ごとに分解します。
この工程分解が、属人化の温床である「丸投げ状態」を解消するための第一歩です。
工程に分けることで、「この工程は誰が担当する」という設計ができるようになります。
「この工程は新人でもできる」
「この工程はベテランがやるべき」
「この工程は外注できる」
といった判断ができるようになるんです。
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ステップ③:担当役割の明確化
各工程を「誰が」担当するかを決めます。
「窓口担当」「入力担当」「チェック担当」など、役割を明確にします。
ここで大事なのは、「人の名前」ではなく「役割」で決めるということです。
「Aさんが入力」ではなく、「入力担当が入力」。
「Bさんがチェック」ではなく、「チェック担当がチェック」。
こうすることで、人が入れ替わっても、役割に沿って仕事が回るようになります。
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ステップ④:インプット・アウトプットの定義
各工程で「何をもらって」「何を渡すか」を定義します。
これにより、工程間の引き継ぎがスムーズになります。
たとえば、「資料回収」工程のアウトプットは「整理された資料一式」。
「入力」工程のインプットは「整理された資料一式」、アウトプットは「入力済みの会計データ」。
こんな感じで、「前の工程から何をもらって、次の工程に何を渡すか」を明確にします。
これがあると、「前の工程がちゃんと終わっていない」とか「次の工程に渡すべき情報が足りない」といった問題を防げます。
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ステップ⑤:可視化の仕組み
進捗状況を「見える化」する仕組みを整えます。
誰が何をいつまでにやっているかが、全員に見える状態を作ります。
これ、エクセルでもできますが、業務管理ツールを使った方が圧倒的に楽です。
「この顧客の案件は、今どの工程にあるか」
「この工程で止まっている案件がいくつあるか」
「誰がどれくらいのタスクを抱えているか」
こうしたことが、パッと見て分かる状態を作ります。
この「見える化」があると、所長やリーダーが「あの案件どうなってる?」と一人ひとりに聞いて回る必要がなくなります。
ツールを見れば分かるから。
タスク漏れや属人管理の防止、チーム運営の基盤になります。
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ステップ⑥:例外処理の整理
特殊な案件対応やトラブル時の処理を整理します。
属人的判断を排除し、対応ルールを明文化します。
どんなに標準化しても、「例外」は必ず発生します。
・イレギュラーな資料が来た場合
・顧客から急ぎの依頼があった場合
・ミスが見つかった場合
こうした「例外」が発生したときに、「どうすればいいか」を明確にしておきます。
「例外が発生したら、まずリーダーに報告」
「急ぎの依頼は、〇〇のルールで対応」
「ミスが見つかったら、〇〇の手順でリカバリー」
こんな感じで、「例外時の対応ルール」を整備します。
これがないと、例外が発生するたびに「どうしよう」となって、結局所長に聞きに行く、という状態になります。
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ステップ⑦:運用と改善ループ
実際に現場で使いながら、設計を見直し続けます。
「使える設計」にしていくPDCAを回し、現場の声を吸い上げることが重要です。
業務設計は、「一度作ったら終わり」ではありません。
実際に運用してみると、「これは使いにくい」「ここは改善した方がいい」という点が出てきます。
その声を吸い上げて、設計を改善していく。
この改善ループを回し続けることが大事です。
逆に言うと、最初から完璧な設計を作ろうとする必要はありません。
「まずはこれでやってみよう」で始めて、「やってみたら、ここが課題だな」と分かったら、改善する。
この繰り返しで、少しずつ「使える設計」になっていきます。
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よくあるつまずきポイント
多くの事務所では「②工程の分解」や「③担当の明確化」から始めようとしてつまずきます。
なぜか?
①の標準業務の定義が曖昧なままでは、設計は機能しないからです。
「何を提供しているか」が曖昧なのに、「どう分けるか」を考えても、うまくいきません。
まずは「①標準業務の定義」から始めてください。
そして、⑤の見える化まで落とし込んで初めて、「運用される仕組み」になります。
①②③④を整理しても、それが「見える」状態になっていないと、結局「各自の頭の中」で運用されることになり、属人化が続いてしまいます。
「見える化」まで落とし込むことで、チーム全員が同じ情報を見て、同じ基準で動けるようになります。
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第6章:業務の波が組織にもたらす悪影響 ── 「暇な月」と「地獄の月」問題

業務設計を考える上で、見落とされがちなのが「業務の波」の問題です。
繁閑差が大きいと、組織にさまざまな悪影響を及ぼします。
会計事務所って、どうしても「繁忙期」と「閑散期」がありますよね。
決算月が集中する3月決算法人を多く持っていると、5月はてんやわんや。
年末調整の時期も忙しい。
一方で、夏場は比較的余裕がある、という事務所も多いと思います。
この「波」が、実は組織にとって大きな問題になっています。
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悪影響1:ベテラン・所長への業務集中
波がある月に、緊急度の高い案件が集中します。
「誰がやるか決まっていない」状態では、経験者が担当せざるを得ません。
結果として、所長・マネージャーの残業・疲弊・ボトルネック化が進みます。
属人化がさらに深刻化します。
「忙しいときは、結局所長が全部やる」
「繁忙期はベテランがフル回転」
という状態が続くと、所長やベテランは疲弊し、若手は「自分は役に立てていない」と感じてしまいます。
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悪影響2:若手・中堅の成長機会の損失
忙しいときに任せられない → いつまで経っても育たない、という悪循環に陥ります。
暇なときには「何をやればいいか」が曖昧で持て余します。
「業務の波」が大きいと、育成と実務の両立が困難になります。
「繁忙期は自分でやった方が早い」
「閑散期は特にやることがない」
という状態では、若手が成長する機会がありません。
結果として、「いつまでも任せられない」状態が続いてしまいます。
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悪影響3:採用・定着にも悪影響
「繁忙期にだけ忙しい」「何をしているか分かりにくい」事務所は、入社後のギャップが生まれやすい環境です。
安定した成長・教育ができない職場は、定着率が低くなります。
求職者からすると、「繁忙期は残業月100時間」「閑散期はやることがない」という事務所は、ちょっと不安ですよね。
「安定して働きたい」と思っている人には、魅力的に見えません。
結果として、採用が難しくなり、せっかく採用しても定着しない、という悪循環に陥ります。
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波をならすための4つの対策
対策1:業務設計を「型」として持つ
サービス定義の明確化、工程の可視化、納期と担当のルール化を行います。
「決まってないからベテランが巻き取る」をなくします。
「誰がやるか」が決まっていれば、繁忙期でも分担できます。
対策2:顧客別のサービス頻度を統一する
顧問先ごとに「提供頻度(例:毎月、年3回、四半期)」を決定します。
契約時から”波を生む条件”(例:不定期回収・不定期面談)を避け、標準化された頻度を提示します。
「顧客によってバラバラ」だと、波が大きくなります。
「毎月15日までに資料をいただく」というルールを統一すれば、波がならされます。
対策3:基準の設定と振り返り
たとえば「毎月10日までに90%資料回収」など、達成指標をあらかじめ設定します。
この基準があることで、「どこに波があるか」「誰が滞留しているか」を分析・改善できます。
数字で把握できれば、対策も打てます。
対策4:余力設計と担当分散
イレギュラー対応(急ぎ資料・トラブル対応)はなくならないため、常に一定の”空き枠”を各担当者に確保します。
「余裕を持つ運用」を前提にし、繁忙時の負荷が一部に集中しない仕組みを整えます。
「全員がキャパ100%で働いている」状態だと、イレギュラーが発生したときに対応できません。
「各自にキャパ20%の余裕を持たせる」という設計が大事です。
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第7章:仕組みだけでは動かない ── ルールとカルチャーの重要性

ここまで「仕組み」の話を中心にしてきましたが、正直なところ、仕組みだけでは8割しか整いません。
多くの現場では、以下のような問題が発生します。
・「そもそも、標準ルールを作ることができない」
・「ルールを作ったのに、いつの間にか守られなくなった」
・「マニュアルを作ったのに、誰も見ていない」
なぜでしょうか?
その理由は、ルールやマニュアル=「型」であり、文化=「その型を使う、人のふるまい・空気」だからです。
同じマニュアルでも、ある事務所では「どんどん改善提案が出る」、別の事務所では「とりあえず作ったけど誰も見ない」という差が出てしまいます。
この差を生み出しているのが「カルチャー」です。
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分業や標準化が進まない10の理由
ここで、なぜ分業や標準化が進まないのか、その理由を10個挙げてみます。
- 立場の違いによる「効率化」の違い
- クライアントファーストの”誤解”
- 所長の方針の曖昧さ・揺れ
- 職員にとって標準化しないほうがメリットがある環境
- 営業力不足(顧客を選べない)
- ベンダー圧力による「ツール先行」
- 現状の「見える化」ができていない
- 中間管理職・リーダー層の設計スキルと時間不足
- 評価・KPIが「個人頑張り」前提になっている
- 採用・教育基盤の弱さ
一つひとつ説明すると長くなるので、ここでは特に重要な「立場の違い」についてお話しします。
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立場の違いによる対立構造
最も多いパターンは、経営者と職員の立場の違いから生じる対立構造です。
経営者側の視点:
・全体の生産性を良くしたい
・属人化を解消したい
・標準化したい
・製販分離したい
・みんなをラクにしたい
職員側の視点:
・個人の生産性を追求したい
・仕事を奪われる怖さ
・慣れたお客さんだけ見ていたい
・いつまで雇用されるか不安
・本当にそれが問題なの?
この対立、別に職員さんが悪いわけではありません。
立場が違えば、見える景色も違うんです。
経営者は「全体」を見ています。
職員は「自分の仕事」を見ています。
だから、同じ「標準化」という言葉を聞いても、経営者は「効率が上がる」と思い、職員は「仕事を奪われるかも」と思う。
この対立を乗り越えるには、「なぜこの変革が必要なのか」を丁寧に説明し、職員にとってのメリットも明確にすることが重要です。
「標準化すると、あなたの仕事が楽になる」
「属人化を解消すると、休みやすくなる」
「製販分離すると、専門性を高められる」
こうしたメリットを伝えて、「自分にとっても良いことなんだ」と納得してもらうことが大事です。
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カルチャーを構成する3つの要素
では、「カルチャー」とは何でしょうか?
カルチャーは、以下の3つの要素で構成されています。
1. 言葉(見えるもの)
・経営理念
・カルチャーブック
・行動指針やルール集
2. 制度(ルールの結果として、誰が得をするか)
・評価・昇格の基準
・採用の基準
・報酬や役職の決め方
3. 日々の行動
・所長やリーダーが、会議や日常で実際にどう振る舞っているか
・ミスが起きたとき、改善提案が出たときの反応
ここで大事なのは、「言葉」だけではカルチャーは作れないということです。
「改善提案を歓迎する」と言っていても、実際に提案した人が「余計なこと言うな」と言われたら、二度と提案は出ません。
「残業を減らそう」と言っていても、遅くまで残っている人が評価されるなら、誰も早く帰りません。
カルチャーは、スローガンではなく、「誰が得をする仕組みか」で決まると思っています。
だから、「言葉」だけでなく、「制度」と「行動」を揃える必要があるんです。
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ルールの整備:チームとして機能する「動き方」を揃える
カルチャーと並んで大事なのが、ルールの整備です。
タスク更新ルール
タスク完了・期日変更・担当者変更の徹底を図ります。
「タスクを完了したら、ツールを更新する」
「期日が変わったら、すぐに反映する」
「担当が変わったら、記録を残す」
こうしたルールを徹底することで、「誰が何をしているか」が見える状態を維持できます。
進捗共有ルール
毎朝または毎週のミーティングで確認をルーチン化します。
朝会10分、週報、進捗ボードなどの形式があります。
「毎週月曜日の朝に、進捗を共有する」というルールがあれば、問題の早期発見につながります。
作業報告ルール
日報・工数記録などで「見えない仕事」を可視化します。
「何に時間がかかっているか」が見えれば、改善の糸口が見つかります。
チェック体制の設計
チェックMTGの仕組み化を行い、属人チェックから仕組みチェックへ移行します。
「特定の人がチェックする」のではなく、「チェックの仕組みがある」状態を作ります。
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効率化を前提にする文化と、そのための余白
効率化を「プラスアルファの仕事」にしないことが大事です。
AI・ツールの話が出てくると、「また新しいもの覚えるのか…」「今でも忙しいのに、これ以上増やされたら無理」という声が、現場から必ず出ます。
効率化が文化になる事務所は、チャージ率・稼働率を「理想の数字」で追い込みすぎず、改善・学び・仕組みづくりのための”余白時間”を、意識的に残す設計をしています。
クライアントチャージ率が80〜85%を超えてくると、「改善する余裕」が急速になくなっていきます。
本当に効率化を文化にしたいなら、チャージ率・売上目標と、余白時間(改善・教育・仕組みづくり)をセットで考えないといけません。
ここまで含めて「カルチャー設計」です。
「全員がフル稼働」の状態では、改善は進みません。
「改善のための余白」を意識的に作ることが大事です。
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リーダー層の役割:文化を壊すのも、育てるのもリーダー
文化づくりの話をすると、どうしても「所長が何を話すか」に意識が向きがちです。
もちろん、所長の言葉は大事です。
でも、実際に文化を決めるのは、日々メンバーと接しているリーダー層です。
・改善提案が出たときに、「それいいね、やってみよう」と言えるリーダーがいるか
・ミスやトラブルが起きたときに、「次からどうするか」を一緒に考えられるか
・評価面談のときに、「売上」だけでなく、「チームへの貢献」や「効率化の取り組み」を語れるか
ここが揃っている事務所は、どれだけルールやツールが増えても、文化として吸収していきます。
逆に、所長は「改善歓迎」と言っていても、リーダーが「余計なこと言うなよ」というスタンスだと、現場の空気は一瞬で冷えます。
文化づくりの実務は、
・所長がカルチャーを言語化し
・リーダー層がそれを日々の行動に翻訳し
・メンバーがそれを見て「ああ、ウチってこういう事務所なんだ」と理解する
という3層構造で考える必要があります。
だからこそ、リーダー層の育成が大事なんです。
「優秀なプレイヤー」をリーダーにするだけでは不十分。
「チームの文化を作れる人」として育てることが必要です。
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第8章:ツール導入の落とし穴 ── なぜ「導入しただけ」では変わらないのか

ここまで、業務設計やカルチャーの話をしてきましたが、もう一つ大事なことをお伝えさせてください。
それは、ツール導入の落とし穴です。
最近、「DX」「効率化」「クラウド」といった言葉をよく聞きますよね。
業務管理ツール、クラウド会計、チャットツール、タスク管理ツール…
いろいろなツールがあります。
そして、「これを導入すれば効率化できる」と思って導入される事務所も多いと思います。
でも、正直に言いますね。
ツールを導入しただけでは、何も変わりません。
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「ツール導入=ゴール」ではない
私がこれまで見てきた中で、こんなパターンがよくあります。
・業務管理ツールを導入したけど、誰も使っていない
・クラウド会計を入れたけど、結局従来のやり方と変わっていない
・チャットツールを入れたけど、重要な連絡はまだメールでしている
・タスク管理ツールを入れたけど、更新されていない
なぜこうなるのか?
それは、ツールが目的になってしまっているからです。
「ツールを導入する」ことがゴールになっていて、「ツールを使って何を実現するか」が明確になっていないんです。
すごい失礼な言い方をすると、適切なパートナーなしで管理ツールを導入することは、“税理士なしでクラウド会計を適当に導入した一般会社”と同じくらい全然ダメな状況になると思います。
お客様には「クラウド会計を入れるときは、ちゃんと設定しないとダメですよ」とお伝えしていますよね?
それと同じで、事務所のツールも「ちゃんと設定しないとダメ」なんです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ツール導入の前にやるべきこと
ツールを導入する前に、まず以下のことを明確にする必要があります。
1. 何を実現したいのか(目的)
「効率化したい」では曖昧です。
「月次の試算表を翌月10日までに出せるようにしたい」
「担当者が休んでも、他の人が対応できるようにしたい」
「所長への相談を減らして、自分で判断できる範囲を増やしたい」
こうした具体的な目的を明確にします。
2. 誰が何をどう使うのか(運用)
「とりあえず導入して、みんなで使ってね」では使われません。
「誰が」「何を」「いつ」「どう」使うのかを決める必要があります。
「資料回収したら、Aさんがタスクを作成する」
「入力が終わったら、Bさんがステータスを変更する」
「チェックが完了したら、Cさんが完了にする」
こうしたルールを決めて、初めてツールが機能します。
3. 使わなかったらどうするのか(定着)
ツールを導入しても、「使わない人」は必ず出てきます。
そのときにどうするか?を決めておく必要があります。
「使わない人には個別にフォローする」
「週次MTGで進捗を確認する」
「使っていない人を可視化する」
こうした「定着の仕組み」がないと、徐々に使われなくなっていきます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ツール導入担当者の孤独
ツール導入の際、よくあるのが「担当者の孤独」です。
所長先生から「このツールを導入してくれ」と言われた担当者。
頑張って設定して、みんなに説明して、「さあ使ってください」と言う。
でも、誰も使ってくれない。
「忙しいから」「よく分からないから」「今までのやり方でいいじゃん」
こうした声が出てきて、担当者はどんどん孤独になっていきます。
そして、最終的には「やっぱり使われませんでした」という報告を所長にすることになる。
これ、担当者のせいじゃないんです。
ツール導入の「目的」が所長から担当者に、そして現場に伝わっていないから、こうなるんです。
所長先生が「なぜこのツールを導入するのか」「導入したら何が良くなるのか」を、ちゃんと言葉にして伝える。
そして、「使うことがルールである」と明確にする。
これがないと、担当者はただ「ツールを入れる係」になってしまい、定着は難しいです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
目的→運用→文化→定着
私がツール導入をご支援するときは、こんな流れで進めています。
1. 目的の共有
まず、「何のためにこのツールを入れるのか」を所長と一緒に言語化します。
そして、それを全員に共有します。
2. 運用ルールの設計
「誰が」「何を」「いつ」「どう」使うのかを決めます。
これは、現場の意見も聞きながら設計します。
3. 文化の醸成
「このツールを使うのが当たり前」という空気を作ります。
所長やリーダーが率先して使うことが大事です。
4. 定着のフォロー
使われているかを定期的にチェックし、使われていない場合はフォローします。
「なぜ使わないのか」を聞いて、改善につなげます。
この「目的→運用→文化→定着」という流れを意識することで、ツールが「使われるもの」になります。
ツール導入=ゴールではなく、目的→運用→文化→定着までをセットで考えることが大事です。
だから、短期で派手な打ち手より、地道な積み上げを好みます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
推進しすぎにご注意!
もう一つ、大事なことをお伝えします。
改革を進めるとき、推進しすぎるリスクがあります。
所長先生が「変えたい!」という熱い気持ちを持っているのは素晴らしいことです。
でも、現場が動けるペースを超えて推進すると、逆効果になることがあります。
・新しいルールを一気に入れたら、現場が混乱した
・変化のスピードについていけない人が、辞めてしまった
・「また新しいこと」と思われて、反発が生まれた
先生の熱い気持ちはわかります。
でも、現場が動けるペースに落とすことが大事です。
一気に変えず、段階を踏む。
繁忙期を避けて導入する。
現場の声を聞きながら進める。
こうした「配慮」が、結果的に改革の成功率を上げます。
改革は、「所長が推進する」ものではなく、「みんなで進める」ものです。
そのためには、現場のペースを尊重することが大事です。
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第9章:採用は「マーケティング」である ── 人が集まる事務所の共通点

ここまで、業務設計やカルチャーの話をしてきましたが、そもそも「採用できない」という悩みを抱えている先生も多いと思います。
最後に、採用についてもお話しさせてください。
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採用が上手くいかない事務所のサイト特徴TOP3
休日に、ひたすら会計事務所の採用サイトを見ていることがあります。
いわゆる余暇の満喫です。(笑)
で、思ったことなんですが、採用で上手くいっていない事務所のサイト特徴TOP3があるなと。
あくまで暫定です。
No.1:そもそも採用サイトがない
No.2:採用サイトの情報量が足りない
No.3:採用サイトのターゲット不在
おそらくこんな感じです。
深堀したらめちゃくちゃあるのだろうけど、とりあえず基本編。
これって業界的には根深い問題なんだなと感じました。
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顧客獲得と採用は、戦い方が全く違う
そもそも、会計事務所って事務所がそこにあるだけでお客さんが来ちゃうときがあるんです。
顧客紹介とか看板見ました、とかですね。
だから、”WEBサイトも看板程度”って認識の方が多く、”このサイトからこういうターゲット顧客にこんなブランディングを狙って、こういうお問い合わせが欲しいからこうしよう”みたいな導線設計がされていないことが多いです。
それでも集客が上手く行っちゃうときがあるのが、会計業界なんですよね。
でも採用はそうはいきません。
なぜなら求職者の人で、“会計業界だけで求人を探している人”が圧倒的に少ないからです。
中小企業400万社、個人事業主は数えきれないくらいいる日本で、独占業務である税務申告をしているのが会計事務所です。
つまり100%どこかの事務所を選ばなきゃいけない状況です。
これに対して、年間転職希望者1,000万人と言われる転職マーケットで、会計事務所がいい!と選んでいる人って1万人もいないのではないでしょうか…0.1%以下です。
つまり、“異業種も検討している人に対して、税理士業界そして事務所の強みを伝えないといけない”ってことだと思うんです。
だから、戦い方が全く異なる中で、いかに事務所の良さを伝えるか、税理士業界がいかに面白い業界か伝えるかが大切なんだと思います。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
うめぼしのおにぎりの話
小規模事務所の採用って、「大手と比べて勝ち目がない」と思われがちです。
でも、そうじゃないと思っています。
ここで、【うめぼしのおにぎりの話】をさせてください。
フルーツバスケット2巻にある話なので、是非漫画を読んでほしいです。※少女漫画ですが最高の漫画の1つだと思っています。(笑)
人がおにぎりなんだとしたら、おにぎりの具(長所)は背中についていて、自分からは見えない。
だから他の人の具を見てうらやましいと思ったり、自分には何もないって思ったりする、みたいな感じの言葉です。
小規模事務所の採用もそうだと思っていて、お客様から選ばれるちゃんとした理由や、先生がこの仕事を楽しいと思えるポイントがあって、でもそれはなかなか言葉にしにくくて、
「もう少し規模があれば…」
「きれいなオフィスなら…」
「エリアが良ければ…」
みたいに悩んでいるような気がします。
もちろん、求職者の人に届けるための”正しいセールスライティング”は必要ですが、ちょっと打ち合わせをすると、私から見て先生にも事務所にも魅力が溢れているのに、もったいないなと思います。
大手にはない魅力が、小規模事務所にはあります。
・所長との距離が近い
・幅広い業務を経験できる
・お客様との関係性が深い
・一人ひとりの裁量が大きい
こうした魅力を、ちゃんと言葉にして伝えれば、響く人には響くんです。
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採用サイトは「資産」である
4年前に作った会計事務所の採用サイトから、何もしていないのに新卒採用の応募が来るようになった事例があります。
しかも毎年コンスタントに。
改めて見て、めちゃよいサイトだなぁと思いました。
でも、このサイトを作った当時は、事務所がすごい良い状態だったわけではなくて、むしろ大変な中で、これから事務所を立て直そうって奮い立った”有志”と協力して作ったサイトで、やっぱ、その気持ちってとっても大事だなと思います。
現状だけじゃなくて未来を考えているからこそ、どんな人材と働きたいかというものが明確になって、だから刺さるメッセージになる訳で、そんな“執念”があると、めちゃくちゃ強いサイトになります。
採用サイトは、一度作れば長く使える資産です。
「今は忙しいから」「お金がかかるから」と後回しにしがちですが、一度しっかり作れば、何年も求職者を集め続けてくれます。
むしろ、求人広告に毎回お金を払い続けるよりも、トータルではコストパフォーマンスが良いことが多いです。
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簿記2級って本当に大事ですか?
ここで、少し挑発的なことを言いますね。
簿記2級とか3級って本当に大事ですか?
私、簿記2級あるけど、決算組めないですよ。
過去の努力の結果としての資格は必要だと思いますし、転職前にそれくらい調べて取っておけよって気持ちもあるかもしれないですが、そうやって狭めているから来ない可能性もある訳で。
私がご支援している事務所では、こんな人材が採用できました。
・20代女性(結婚済み)
・元々地銀の内勤職(旦那様の転勤で引っ越し)
・税理士試験勉強中
・会計事務所に転職したかったが、最寄りの市だと未経験ダメな職場ばかりで、近隣エリアに検索を広げた
・シュフジョブ経由でパート採用→正社員転換に向けて頑張り中
・パート2年目で月1〜2社の決算が組める
・経理代行で月〇〇万円の担当がある
人柄もよく、しっかり人の話を聞けるタイプなので、こりゃお客さんに好かれるなと…
こんな良い人材を“未経験だからNG”って切って捨てる事務所さんもあるんだなぁとしみじみ思いました。
簿記2級を取ったら、欲しがる事務所さんたくさんあって、パートで決算組めるようになったら、次は正社員で大手会計事務所の求人と競う訳ですよね。
「経験者」「資格保持者」を条件にするのは分かりますが、それによって良い人材を逃している可能性もあるんです。
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第10章:改善までの9ステップ ── 具体的な進め方

最後に、ここまでの内容を踏まえた「改善までの9ステップ」を整理します。
これは、私が実際にご支援する際に使っている流れです。
先生の事務所でも、参考にしていただければと思います。
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ステップ1:現状確認
今の事務所の状態を正確に把握します。
人員構成、顧客構成、業務フロー、収益構造などを棚卸しします。
「今どうなっているか」を把握しないと、「何を変えるべきか」が分かりません。
まずは現状を正確に把握することから始めます。
ステップ2:短期施策での改善検討
すぐにできる改善から着手します。
情報の置き場所の統一、進捗確認MTGの設定など。
「大きな改革」をする前に、「すぐできること」で成果を出す。
これで「改善すると良くなる」という成功体験を作ります。
ステップ3:他社事例の研究・メリットデメリットの理解
成功事務所の事例を学び、自社に適用できるポイントを探ります。
「先を走っている事務所」がどうやっているかを知ることで、「自分の事務所でもできそう」というイメージが持てます。
ステップ4:先生が方向性を決める
文鎮型組織で単価を上げるのか、製販分離型で効率化するのか、経営者として方向性を決断します。
これは所長先生が決めることです。
他の誰かに任せることはできません。
「どんな事務所にしたいか」を、先生自身が決めてください。
ステップ5:事務所で基盤となる共通認識を持つ
方針・文化・指標について、メンバーと共有します。
「なぜ変えるのか」「何を目指すのか」を、全員で共有します。
これがないと、「所長だけが盛り上がっている」状態になり、現場がついてきません。
ステップ6:ルール・カルチャーの現状の言語化・追加・修正
行動指針やルールを明文化し、必要に応じて追加・修正します。
「今はこういうルールでやっている」「今後はこうしたい」を言語化します。
ステップ7:業務設計をする
標準業務の定義、工程の分解、役割の明確化を行います。
第5章でお伝えした7つのステップを実行します。
ステップ8:現状業務からの移行をしていく
段階的に新しい体制へ移行します。
一気に変えようとせず、優先順位をつけて進めます。
「全部いっぺんに変える」のは無理です。
まずは一部の顧客、一部の業務から始めて、徐々に拡大していく。
この「段階的な移行」が大事です。
ステップ9:改善指標の定義・定期的なPDCA・必要ツールの選定
KPIを設定し、定期的に振り返りながら改善を続けます。
「やりっぱなし」にしない。
「定期的に振り返って、改善する」サイクルを回し続ける。
これが、持続的な改善につながります。
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9ステップは一気にやらなくていい
この9ステップ、見ると「大変そう…」と思うかもしれません。
でも、一気にやる必要はありません。
まずはステップ1〜2の「現状確認」と「短期施策」から始めてください。
それだけでも、事務所は少しずつ良くなります。
そして、余裕ができたら、ステップ3〜9を進めていく。
この「段階的に進める」という考え方が大事です。
私もご支援させていただく際は、「まずはここから」「次はここ」という形で、段階的に進めています。
「一気に変える」よりも「少しずつ変える」方が、現場も受け入れやすいですし、成果も出やすいです。
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おわりに:「個人の力に頼らない」ことは、弱くなることではない

ここまで、長い記事をお読みいただき、本当にありがとうございます。
最後に、一番お伝えしたいことをお話しさせてください。
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「人を増やせば楽になる」という期待は、残念ながらそのままでは実現しません。
採用の前に「渡す仕事」を決め、
業務を「工程基準」で設計し、
情報の「置き場所」を統一し、
権限移譲を「段階設計」で行い、
所長が「設計者」として動く。
この5つの違いを理解し、実践することが、楽になる事務所への第一歩です。
そして、仕組みだけでなく、その仕組みを動かす「ルール」と「カルチャー」を育てること。
これが持続的な成長の鍵です。
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「個人の力に頼らない」ことは、”弱くなること”ではなく、”強くなること”です。
「所長がいないと回らない」事務所は、実は脆いんです。
所長が体調を崩したら?
所長が長期で休んだら?
その時に、事務所は止まってしまいます。
でも、「チームで回る仕組み」があれば、誰かが休んでもカバーできる。
誰かが辞めても、引き継ぎできる。
新しい人が入っても、型に沿って育てられる。
これは、「弱い」のではなく、「強い」組織です。
そして、この「強さ」は、先生の努力だけでは作れません。
仕組みで作るものです。
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チームで回る仕組みをつくり、安心して、誰もが挑戦できる職場を目指しましょう。
所長先生も、職員さんも、お客様も、みんなが幸せになれる事務所。
それは、仕組みがあって初めて実現できます。
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今からできることとして、以下の3つを提案します。
1. タスクの更新ルールを1つ決める
「タスクを完了したら、ツールを更新する」
これだけでも、「見える化」の第一歩です。
2. 毎週の進捗確認MTGを設定する
週に1回、15分でいいから、進捗を確認する場を作る。
これだけで、問題の早期発見につながります。
3. 「うちの仕事の姿勢」を言葉にしてみる
「うちの事務所は、こういう姿勢で仕事をする」
これを言語化することで、カルチャーの土台ができます。
小さな一歩から始めてみてください。
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この記事が、先生の事務所の改善に少しでもお役に立てれば、とても嬉しいです。
もし「もう少し詳しく聞きたい」「うちの事務所の場合はどうしたらいい?」というご質問があれば、お気軽にお声がけください。
主にFacebookでやりとりをさせていただいております。
個別MTGでしかお伝えできない情報もありますので、ぜひお友達申請お願いします。
では、今日も良い一日を!
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著者プロフィール
大須賀清隆(おおすが・きよたか)
株式会社FLOWERY 代表取締役。士業向け業務管理ツール「FLOW」を運営。1,400事務所以上のサポート経験を持ち、現在は70以上の事務所にFLOWを導入、30事務所以上の月次支援を行う。集客・採用・業務フローなど、外部COOとしてあらゆる仕組み化をサポートしている。
支援実績:年間売上30万円の会計事務所を5年で2,700万円まで拡大支援、5名の会計事務所を5年で37名4.5億円規模まで拡大支援など。
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