税理士事務所の属人化解消、何から手をつけるべきか。「業務マニュアル」と「顧客情報」は別問題です

「属人化をなくしたい。でも、何から手をつければいいかわからない。」
こういう先生、本当に多いです。
その迷いの原因、実はここにあるんじゃないかと思っています。
属人化の問題が、1つに見えて、実は2つある。
これを整理せずに動き出すと、半分直して「やった!」と思っていたのに、別の半分からトラブルが出てきてしまう。
今日は、属人化を解消するために必要な「2層構造」の話をします。
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属人化を解消しようとして迷う理由
問題が1つに見えて、実は2つある
退職・長期休暇・クレームのタイミングで属人化は顕在化します。
このとき「情報が残っていない」という問題が起きるのは共通しています。
でも、「残っていない情報」の中身をよく見ると、性質がまったく違う2種類に分かれていることがわかります。
これを同じ問題として扱ってしまうと、解決策がずれます。
片方に効く対策が、もう片方にはまったく効かない、ということが起きます。
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属人化の問題は2層に分かれている

第1層:業務オペレーション層(マニュアル・進捗・工程)
「仕事を進めるための情報」が残っていない問題です。
具体的には、こういうことが起きます。
- この顧客の月次処理、どこまで進んでいるか
- 資料の回収ルール、誰が担当しているのか
- 弥生とfreeeで、工程が違うはずだが、どう設計されていたか
- この処理、何をもって「完了」としていたか
業務の工程・手順・進行状況が、担当者の頭の中にしか入っていない。
これが第1層の問題です。
第2層:クライアントコミュニケーション層(面談・合意・定性情報)
「お客様との関係性・合意内容に関する情報」が残っていない問題です。
具体的には、こういうことが起きます。
- 去年の面談で、社長と何を話したか
- 次の決算に向けて、どんな方針を合意していたか
- この顧客、以前クレームがあったっけ
- ご家族の状況や、保険・相続の相談、どこまで話が進んでいたか
担当者が持っている「顧客との信頼関係・文脈」が、どこにも記録されていない。
これが第2層の問題です。
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2層の解決策はまったく異なる

2層は、表面上は「情報が残っていない」という同じ問題に見えます。
でも、解決策がまったく違います。
第1層は仕組みで解決できる
処理の工程を定義して、進行状況を見える化して、「完了条件」を決める。
これは、業務管理ツールやマニュアルで対応できる範囲です。
誰が担当でも、同じフローで動ける状態にすること。 これが第1層の解決です。
仕組みさえ整えれば、担当者が変わっても引き継げます。
経験が浅い人でも、ルールに沿って動けるようになります。
第2層は習慣と評価でしか解決できない
面談の内容を記録する。
合意事項を次のアクションとして残す。
顧客の定性的な情報(事業の状況、家族構成、今後の方針)を蓄積する。
これは、ツールを入れただけでは解決しません。
「書く習慣があるかどうか」と、「書くことが評価されているかどうか」の問題です。
担当者が多忙なままでは、第2層は絶対に改善しません。
記録よりも処理を優先するのは、人間として当然の行動だからです。
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必ず第1層から先に解決すべき理由

「だったら両方同時に解決すればいい」と思う先生もいると思います。
でも、これがうまくいかないんです。
担当者に余裕がない状態では第2層は変わらない
第2層(面談記録・顧客情報の蓄積)は、担当者が意識的に時間をとらないと進みません。
でも、処理に追われている状態では、記録を書く余裕なんてない。
だからこそ、まず第1層を整備して、担当者から処理の負荷を下げることが先決なんです。
処理を回す時間が減れば、顧客と向き合う時間が生まれる。
顧客と向き合う時間が生まれて初めて、第2層の記録文化が育ちます。
この順番を間違えると、ツールを入れても、運用が定着しません。
音声議事録・AIでも「人の判断」が必要な部分がある
最近は音声の自動文字起こしも低コストで使えるようになっています。
「録音→テキスト化」の仕組みを入れれば、第2層も解決するんじゃないか、と思う先生もいるかもしれません。
でも、文字起こしは「素材」に過ぎません。
そこから「何を合意したか」「次に何をすべきか」を整理するのは、
今もまだ担当者の仕事として残ります。
担当者に時間的余裕がない状態では、文字起こしデータが溜まるだけで、活用されません。
やはり第1層の整備が先です。
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製販分離が第1層の解決に有効な理由

ここで一つ、組織設計の話をします。
製販分離とは、監査・面談を担当するフロントチームと、処理・入力を担当する製造チームを分ける組織設計のことです。
製販分離についての詳細はこちらの記事でまとめています。
▶ 【徹底解説】製販分離って何ですか?会計事務所での”分業の考え方”をイチから解説します

▶ クラウド会計特化事務所の製販分離、いつ踏み切るべきか?

製造チームにはマニュアル文化が自然につく
製造チームは、入力・処理を専門に担当するチームです。
メンバーは経験の浅い方がスタートすることも多く、マニュアルがないと動けない環境が自然に生まれます。
「マニュアルを作るより先に処理した方が早い」という問題が起きにくい。 むしろ、「マニュアルを作ってくれないと困る」という状況になる。
マニュアル文化が、組織の設計によって自然に育つんです。
フロント担当者の時間が生まれて第2層改善の環境になる
製販分離によって、フロント担当者は処理の負荷が下がります。
顧客との面談・関係構築に時間を使えるようになる。 面談の記録を書く余裕が生まれる。
これが第2層の改善につながる環境です。
製販分離は、生産性向上だけでなく、属人化解消の設計としても非常に有効です。
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第2層の整備に必要な3つのこと

製販分離の有無に関わらず、第2層を整備するために必要なことを整理します。
① 担当者の時間的余裕を先に作る
記録は、時間がある人しか書きません。
処理を自動化・分業できる部分を切り出して、担当者の「考える時間」を確保することが先決です。
② 音声記録・テキスト化の環境を整える
面談後に議事録を手書きするのは、実際には続きません。
「録音→テキスト化」の仕組みを作るだけでも、大きく変わります。
ただし、文字起こしはあくまで素材です。
要点の整理・アクションの確認は担当者が行う前提で設計してください。
③ 記録することを「評価」に入れる
「書いた方がいい」という認識だけでは続きません。
面談議事録の更新率、顧客情報の入力率、
これを評価指標に入れることで、「書くこと」が仕事として認識されるようになります。
記録するための時間を業務時間として確保することも、同時に必要です。
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事例:20名・顧問先350件の事務所での2層別アプローチ
少し前に、20名規模・顧問先350件(法人200・個人150)の事務所からご相談をいただきました。
現状は担当者裁量とExcel管理が中心で、弥生とfreeeが混在している状態です。
この事務所の問題を整理すると、2層にきれいに分かれていました。
第1層の問題
・処理の工程が担当者ごとにバラバラ
・どの顧客の月次がどこまで進んでいるか、所長にも見えない
・弥生とfreeeで工程の設計が変わるはずなのに、統一されていない
第2層の問題
・面談の内容が議事録として残っていない
・顧客ごとの固有ルールが、担当者の記憶の中にしかない
・守秘義務の観点から、情報の閲覧権限も整理できていない
この事務所には、まず第1層から整備することをお勧めしました。
月次の標準工程を定義して、進行状況が見えるようにする。
弥生用・freee用で工程を分けて設計する。
例外処理の扱いをルール化して、担当者の属人的な判断を減らす。
第1層が安定してきたら、次のフェーズとして面談記録の仕組みを整える。
Google DriveとFLOWを連携させて、顧客ごとの情報が蓄積される環境を作っていく。
一気に全部を解決しようとしないこと。
これが、属人化解消を成功させるコツです。
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まとめ:属人化解消には「順番」がある
属人化の問題は2層に分かれています。
第1層(業務オペレーション層):業務の標準化・可視化で解決する
第2層(クライアントコミュニケーション層):担当者の余裕・習慣・評価で解決する
そして、解決する順番は必ず第1層からです。
担当者に時間的余裕がない状態で第2層を変えようとしても、続きません。
処理の負荷を下げることが、第2層改善のための環境づくりになります。
属人化は、設計の問題です。 誰かを責める話ではありません。
「どちらの層から手をつけるか」を決めて、一歩ずつ進んでいきましょう。
では、今日も良い一日を!
(「うちの事務所はどちらの層から始めればいいですか?」という先生は、お気軽にお声がけください。現状を聞いて一緒に整理します。)
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