会計事務所の製販分離・組織体制3パターンと失敗を防ぐポイント

この記事は「製販分離とは何か?」の続編です。まだお読みでない方は、ぜひそちらからどうぞ。

先日、セミナーでこんな質問をいただきました。
「製販分離って、言葉はわかった。でも、うちの事務所に当てはめるとどういう組織にすればいいんですか?」
たしかに、概念はわかっても「実際どういう形にするか」は別の話です。
製造チームと監査チームを分ける、とひと言でいっても、やり方はひとつではありません。
事務所の規模、立地、スタッフの構成、所長先生のビジョン——これらによって、最適な形はまったく変わってきます。
今回は、製販分離を実現するための組織体制の3つのパターンと、「なんとなく分業してる」状態がなぜ生まれるのか、カオスの正体を整理していきます。
所長先生が「なんか最近ごちゃごちゃしてきた……」と感じているなら、その答えがここにあるかもしれません。
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会計事務所の組織は大きく2種類ある

少し整理から入りましょう。
会計事務所の組織は、大きく分けると2つの型があります。
① 文鎮型
所長先生の下に、全員が横並びでいる形です。
担当者が5人いれば、全員が直接所長につながっている。
「文鎮」という言葉がぴったりで、上が1つ、下に全員が並んでいる状態ですね。
規模が大きくなるにつれて、ここにリーダーを置いてピラミッド構造にしていくことが多いです。
ただし、ピラミッドにしても担当制(Aさんの30社はAさんが全部やる)のままであれば、文鎮型の延長です。
② 製販分離型
製造チーム(入力・記帳)と、監査チーム(お客様対応・面談)を明確に分ける形です。
それぞれにまとめ役を置いて、仕事を集約→分配→再集約する仕組みを持っています。
ここが文鎮型との本質的な違いです。
そして実は、95%の事務所が「ペア型・トリオ型」と呼ばれる文鎮型の派生で動いています。
ペア型というのは、監査担当者の下にパートさんや補助スタッフがついている形です。
AさんにはBさんがついている。CさんにはDさんがついている。
見た目は分業しているように見えますが、これはまだ製販分離ではありません。
なぜなら、集約→分配→再集約の機能がないからです。
ここに「ちょっと分業しよう」を加えていった結果、問題が生まれやすい状態になっていることが、本当に多いんです。
その話を、順を追って説明していきます。
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数字で見る製販分離の効果

まず数字から入りましょう。
私がセミナーでよくお見せしているのが、以下のような比較です。
| 職人の集まり(担当制) | 分業(入力のみ分離) | 製販分離 | |
|---|---|---|---|
| 担当件数 | 20件 | 30件 | 60〜70件 |
| 残業(通常期) | 60h | 50h | 20h |
| 残業(繁忙期) | 100h | 80h | 30〜50h |
担当件数が3倍以上、残業が3分の1以下。
「そんな変わるの?」と思われるかもしれません。
でも、変わります。
担当制の時代は、資料回収から領収書整理、会計ソフトへの入力、レポート作成、お客様への説明まで、1人の担当者がすべてをやっていた。
朝から晩まで、全部自分でやって、繁忙期は月100時間の残業。
これが当たり前になっていると、そこから抜け出せなくなってしまいます。
製販分離が進むと、担当者(監査チーム)がやるのは決算予測・決算処理・税務調査立会いなど、本当にお客様と向き合う仕事だけになります。
入力・チェック・書類作成などは製造チームが担う。
担当件数が増えても、残業が増えない。
これが「時間生産性」を劇的に上げる構造の正体です。
もちろん、この状態に至るまでには時間も準備も必要です。
一足飛びにはいきません。
でも、「目指すべき方向」は、この数字を見ると明確になると思います。
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製販分離の組織体制3パターンを解説する

では、製販分離型の組織はどういう形で実現するか。
大きく分けると、3つのパターンがあります。
それぞれ、詳しく解説していきます。
① 事務所内分業型
どんな形か
同じ事務所の中で、製造チームと監査チームに分かれる形です。
同じ拠点内で資料の受け渡しをしながら、それぞれの役割で動きます。
製造チームのことを「入力チーム」「ラボ」と呼ぶ事務所もありますし、監査チームを「ビジター」と呼ぶところもあります。
呼び名は何でもいいのですが、役割を言語化して分ける、これが出発点です。
メリット ・相談が直接できるためフォローしやすい ・立ち上げ時の混乱が少ない ・セキュリティやリモート設定を過度に考えなくてよい
デメリット ・ルールが曖昧なまま運用されやすい ・属人化や「何となく運用」に流れやすい
現場で何が起きるか
距離が近いからこそ、「ちょっといい?」と声をかけてしまい、分業の境界線が自然と崩れていくんです。
監査チームのAさんが「これ、急ぎで入力できる?」と製造チームのBさんに直接声をかける。
Bさんは断れないから対応する。
でも、Bさんは今月の入力スケジュールを組んでいた。それが崩れる。
こういうことが毎月のように起きると、ルールは形骸化していきます。
製造チームが独立したチームとして機能するためには、依頼のルート・優先度の判断・割り込みの処理方法を、きっちり決める必要があります。
最初の一歩としてはやりやすいのですが、ルールをきっちり作らないと「なんとなく分業してる」状態が何年も続きます。
これは、私が現場で一番よく見る失敗パターンです。
② 別拠点工場型
どんな形か
本社とは別に「工場拠点(記帳センターなど)」を置き、製造業務をまとめて処理する形です。
税理士法人であれば、支店として立ち上げるケースが多いです。
資料のやり取りは郵送中心になります。
本店に集めた資料を支店に送るパターンもありますし、お客様から直接支店に送付してもらうパターンもあります。
後者の場合、担当者が資料回収から完全に切り離されるので、監査担当者の時間生産性がさらに上がります。
メリット ・大量処理・集約型に強い ・AI・RPAの効果が圧倒的に出やすい
これ、すごく大事なポイントなんです。
1人の監査担当者に「RPAを使ってね」と言っても、なかなか使いません。
20社・30社分の入力を自分でやっている人に「これも覚えて」は、正直ハードルが高い。
でも、製造チームで150社・200社の入力を集中してやるとなれば話は変わります。
同じ作業を繰り返す量が圧倒的に多いから、1つのツールを覚えることで得られるリターンが全然違う。
同じ作業を集中してやるから、AI・RPAの効果が出やすいんです。
これが別拠点工場型の、ひとつの大きな魅力だと私は思っています。
デメリット ・拠点間の距離があるため、ルールが曖昧だと混乱が大きくなる ・依頼がチャットや電話で飛び交うと、工程がバラけやすい ・厳格なルール設計が必須
現場で何が起きるか
物理的な距離があるからこそ、ルールが曖昧だときつい。
事務所内分業型なら「ちょっと聞きに行ける」ですが、別拠点だとそれができない。
チャットや電話でのやり取りが増え、「急ぎでこれお願い!」が乱発されると、工場の生産性が著しく落ちます。
製造業でいう「割り込み生産」が増えると、段取りが崩れて全体のアウトプットが下がる——これと同じことが起きます。
逆に言えば、厳格なルール設計ができれば、3つのパターンの中で最も効率が上がる形です。
ただし、立ち上げのハードルは最も高い。
別の拠点を作るということは、場所の確保・責任者の配置・セキュリティ設計など、やることが一気に増えます。
1,000万円以上かかることもありますから、相応の覚悟と準備が必要です。
③ リモート外注型
どんな形か
製造業務を、外部のリモートワーカーや委託者に依頼する形です。
入力をリモートで外注するパターンが多いですが、監査担当者をリモートで雇用するケースも増えています。
資料は郵送かスキャンデータの共有で対応します。
最近、都市部の事務所を中心に相談が増えています。
オフィス移転は1,000万円以上かかることもありますから、「物理的な拠点を増やさずに規模を拡張したい」という需要ですね。
私が支援している事務所の例を挙げると——
ある事務所は社内50人に対して外注が10人。
別の事務所は正社員13人・パート10人に対して外注が20人という体制を作っています。
こうなってくると、管理の複雑さが一気に上がります。
メリット ・社内リソースを増やさずに業務量を処理できる ・クラウド環境で拡張性が高い ・都市部でオフィス賃料を抑えたい場合に有効
デメリット ・情報流出や資料紛失などのリスク管理が必須 ・誰に何件依頼しているかをシステムで管理しないと崩壊する ・所内にスキャン担当を置く必要が出やすい
現場で何が起きるか
外注が20人いるということは、その20人の進捗をどう把握するか、という問題が常についてまわります。
エクセルで管理しようとすると、すぐに限界が来ます。
誰が何件担当していて、どこまで終わっているか。
締め切りが近いのに進んでいない案件はどれか。
これをリアルタイムで把握するには、専用の業務管理ツールが必要になります。
また、資料のスキャンをどこで誰がやるか、という問題も出てきます。
お客様から紙で届いた領収書を、誰がデータ化してリモートの外注先に送るのか。
これが設計できていないと、「リモートにお願いしたいけど、そもそも資料が渡せない」という状況になります。
メリットは大きいのですが、管理設計を丁寧にやらないとあっという間にパンクします。
ここは覚悟が要る選択肢です。
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なんとなく分業が引き起こすカオスの正体

3つのパターンをお伝えしましたが、実は多くの事務所が陥るのは、これらではありません。
いちばん多いのは、「ペア型・トリオ型からジワジワと壊れていくパターン」です。
どういうことか。
少し詳しく見ていきましょう。
最初は、監査担当者Aさんの下にパートBさんがついている「ペア型」です。
これは1対1。管理のパターンは1つ。シンプルです。
でも事務所が成長して、「BさんはCさんの仕事も手伝って」「Dさんも入ってきたのでよろしく」と、組み合わせが徐々に増えていきます。
ここで、数字を見てください。
- 1対1(1パターン)
- 2対1(2パターン)
- 2対2(4パターン)
- 3対3(9パターン)
- 4対4(16パターン)
足し算で人が増えているのに、組み合わせは掛け算で増えている。
これが最大の問題です。
なぜ掛け算になるのか。
監査担当者が2人、パートさんが2人のとき——
AさんはBさんと組むことも、Dさんと組むこともある。
CさんもBさんと組むことも、Dさんと組むこともある。
つまり組み合わせは2×2で4通り。
これが3対3になると3×3で9通り。
4対4になると16通り。
しかも現実は、「AさんとBさんとDさんが今月のこのお客様を担当」みたいに、もっと複雑な組み合わせが次々と生まれます。
150社・12ヶ月分=1,800件のお仕事があるとします。
3対3の体制だと、その1,800件に対して9パターンの担当組み合わせが存在します。
2パターンなら管理できますが、9パターンになると誰が何をやっているか、本当にわからなくなります。
しかも月次が終わったら、次は決算・確定申告・年末調整——スプレッドシートがどんどん増えていく。
これが「なんか最近ごちゃごちゃしてきた」の正体です。
能力の問題でも、根性の問題でもありません。
構造的に管理できない状態になっているだけです。
この状態が続くと、現場でこういうことが起きます。
「Aさんのお客様の試算表、今月まだ出てないですよね?」
「えっ、Bさんに入力お願いしてたんですが……Bさん、どうですか?」
「私、Cさんの分が先に来てたので、そっちを先にやってました……」
誰も悪くない。みんな一生懸命やっている。
でも、結果としてお客様への納品が遅れる。
この「誰のせいでもないのに回らない」という状態が、ペア型・カオス型では必然的に起きてきます。
しかも、声が大きい人・強く頼んだ人の仕事が優先されやすくなる。
「すみません、明日お客様に会うので急ぎでお願いします!」が通りやすくなる。
これがルールのない状態の怖さです。
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担当管理と工程管理の違いを理解する

ここで、管理の考え方を整理しておきます。
これを理解すると、「なぜ製販分離が必要なのか」がより腑に落ちると思います。
担当管理とは、お客様ごとに担当者を決めて、その担当者が全工程を管理する方法です。
「Aさん、あなたの30社は今どうですか?」
Aさんに聞けば、Aさんの担当する30社の状況が全部わかる。
これが担当管理です。
シンプルで、小規模な事務所では非常にうまく機能します。
工程管理とは、業務の工程ごとに状況を管理する方法です。
「入力の工程は今何件たまってますか?」
「チェック待ちは今何件ありますか?」
縦軸(クライアントごと)ではなく、横軸(工程ごと)で見る管理です。
ペア型・トリオ型は「担当管理」です。
Aさんに聞けばAさんの30件はわかるから、タスク管理ツールがそこまで必要ない。
実は、これがペア型のひとつの「強み」でもあります。
所長先生がABCさんに聞けば、90件の状況が把握できる。管理コストが低い。
だから小規模のうちは、ペア型で十分回ります。
問題は、組み合わせがどんどん増えて「カオス型」になったときです。
Aさんに聞いても、答えが返ってこない。
なぜなら、Bさんがやっている途中の仕事があるから。
「Bさんに入力してもらってるんですが、どこまで終わってるか私もわからなくて……」
これが起きた瞬間から、担当管理は機能しなくなっています。
でも工程管理に切り替えるには、製造チームのまとめ役が必要です。
まとめ役がいて初めて、「入力チームに今何件積んでいるか」という問いに答えられるようになる。
進捗の可視化が、製販分離によって初めて可能になるんです。
これが5人・10人のときはあまり差が出ません。
でも20人・30人を超えたとき、この差は取り返しのつかないくらい大きくなっています。
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組織設計は最初から設計するか後から直すかの2択

最後に、少し長い目で考えていただきたいことをお伝えします。
京都に行かれたことはありますか?
「烏丸通」「河原町通」「四条通」——道路が縦横にきれいに並んでいますよね。
あれは偶然ではありません。
平安京として最初から設計された都市だから、道が碁盤の目になっているんです。
では、同じように碁盤の目の街が日本にもうひとつあることをご存知でしょうか。
それが札幌です。
札幌は明治時代、北海道開拓のために一から計画的につくられた都市です。
「大通」を中心に、東西南北に道路が整然と走っている。
「南3条西4丁目」という住所の表記がまさにそれで、碁盤の目の座標そのものです。
なぜ京都も札幌も碁盤の目になったのか。
答えはシンプルです。
最初に設計図を引いてから、街をつくったから。
では、逆に自然に発展した街はどうなるか。
東京の下町を歩いたことはありますか?
路地が入り組んでいて、どこに出るかわからない。
地図を見ても道がどこに向かっているかわかりにくい。
これは街の人が「わかりにくくしよう」としたわけではありません。
人が住み始めて、道が自然にできて、建物が建って——その繰り返しの中で、今の形になっていった。
後から「この道を全部直して碁盤の目にしよう」としたら、どれだけ大変か。
今住んでいる人がいて、今ある建物があって——そこを全部変えるのは、ほぼ不可能です。
会計事務所の業務フローも、まったく同じです。
事務所が小さいうちは、自然に仕事の流れができていきます。
Aさんが入力もやって面談もやる。
Bさんが来たから、AさんのフォローをBさんにお願いする。
Cさんが得意な仕事をCさんに任せる。
これが積み重なって、5年後・7年後に「なんでこんなに複雑になったんだろう」という状態になる。
「よし、製販分離しよう」と決めても、今ある動線・今いる人・今のルールをすべて整理し直さなければならない。
移行期間中は混乱が起きる。お客様に迷惑をかけるリスクも上がる。
これが後からつくる街の難しさです。
一方で、5人以下のうちに仕組みの土台を作っておくと、後々が圧倒的に楽になります。
最初から「製造チームと監査チームはこう分ける」「集約→分配→再集約はここが担う」と設計しておけば、人が増えてもその設計に乗っかるだけです。
新しく入ったスタッフも、最初から仕組みの中で動ける。
「この人はここを担う」が明確だから、教育もしやすい。
「今は営業を頑張る時期」か「今が仕組みを作るタイミング」か。
これは事務所によって違います。
10人未満の事務所で、まだ売上を伸ばすことが最優先の時期なら、今すぐ製販分離に着手する必要はないかもしれません。
ただ、10年後にどんな組織でいたいかというゴールを描いてから逆算すると、答えが見えやすくなります。
5人のときに設計し始めた事務所と、20人になってから設計し始めた事務所。
5年後の差は、必ず数字に出てきます。
「重要だけど、今は緊急ではない」という仕事を、いつやるか。
この問いに向き合うタイミングが、今かもしれません。
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まとめ:会計事務所の製販分離体制を選ぶために

今回お伝えしたことを整理します。
製販分離の3つの体制パターン
・事務所内分業型→立ち上げは楽だが、距離が近いためルール設計が緩くなりやすい。最初の一歩には向いているが、ルールを明文化しないと形骸化する。
・別拠点工場型→大量処理・AI/RPA活用に強い。ルール設計が厳格にできれば最も効率が上がるが、立ち上げのハードルが高い。
・リモート外注型→拡張性が高く、コストを抑えた規模拡大に有効。ただし管理設計が複雑になり、専用ツールが必須。
カオス型の罠
・ペア型・トリオ型は人が増えると組み合わせが掛け算で増える
・担当管理では、組み合わせが増えた瞬間に進捗の把握ができなくなる
・製販分離の「集約→分配→再集約」があって初めて、工程ごとの管理が可能になる
設計のタイミング
・早いほうが移行コストは低い
・京都・札幌のように、最初から設計するほど動線は綺麗になる
・ゴールから逆算して、今の優先度を決める
「なんかうちの事務所、最近わちゃわちゃしてきた……」
それは、能力の問題でも根性の問題でもありません。
組み合わせが増えた結果、管理できる構造でなくなっているだけです。
設計を整えれば、必ず動きやすくなります。
次回は「なぜ記帳は終わらないのか——案件の難易度と製造チームの限界設計」というテーマでお話しします。
「製販分離を始めたのに、監査担当者がフォローに引っ張られ続ける」という現場の問題に、正面から向き合います。
今日も一日、良い仕事を!
製販分離の実現に向けて、何から手をつければいいかわからない、という方はお気軽にご相談ください。事務所の現状を一緒に整理するところからご支援しています(笑)。
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