会計事務所で職員のメンタル不調が起きやすい3つの構造と、所長にできること

こんにちは、大須賀です。
先日、ある会計事務所の職員さんと面談をさせていただきました。
その方とは、研修の場で一度お話しした程度。 今回が、ほぼ「初めまして」に近い関係性での面談でした。
ただ、その方はすでに所長先生と相談されており、 近々「休職」を選ぶことが決まっていたんですね。
体調を崩されたということで、特にメンタル面での疲労が大きかったそうです。
所長先生のご配慮もあって時間をいただき、 その面談を通じて私が感じたこと──
それが今日、この記事を書くきっかけになりました。
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「良い事務所」だった。所長もフォローしていた。それでも話せなかった。

今回の事務所さん、実は私が1年ほどご支援させていただいている事務所さんです。
所長先生も非常に前向きで素晴らしい方で、 客観的に見ても「しっかり整っている事務所」でした。
具体的には──
- 顧問単価は高めで、9割の顧客で時間単価1万円を達成
- リモートワーク体制も導入済みで、週1出社
- ツールを活用した効率化も進んでいて、生産性は高め
数字的にも、働き方の面でも、十分に「優良事務所」と呼べる水準です。
しかも、所長先生は職員さんのことをよく気にかけていました。 声がけもしていたし、フォローしようとしていた。
でも──職員さんは、話せなかったんです。
これが今回の核心です。
「環境が整っていなかった」のではない。 「所長先生が冷たかった」のでもない。
それでも、しんどいと言えなかった。
なぜそんなことが起きるのか。 今日は、その構造をお伝えしたいと思います。
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「話せなかった」のは、環境の問題ではなかった

「助けを求めてはいけない」という思い込みが生まれるしくみ
心理学や認知行動療法(CBT)の世界に、「すべき思考」という概念があります。
「〜ねばならない」「〜してはいけない」という思考パターンのことで、 これがストレスや精神的疲弊の大きな原因のひとつとされています。
ポイントは、この思考は「性格が弱いから」でも「意志が足りないから」でもなく、 思考のクセとして、本人の自覚なく染みついてしまうところです。
会計事務所で働く方に特に起きやすいのは、こんなパターンです。
- 「ミスしてはいけない」
- 「迷惑をかけてはいけない」
- 「しんどいと言うのは甘えだ」
- 「完璧にできない自分を見せてはいけない」
これらは全部、「すべき思考」の典型例です。
そして、このクセが強くなると何が起きるか。
外から差し伸べられているサポートの手を、自分から弾いてしまうんです。
所長先生が「最近どう?」と声をかけても、 「大丈夫です」と答えてしまう。
相談できる場があっても、 「こんなことで相談するのは申し訳ない」と思ってしまう。
環境は整っていた。 所長先生はフォローしようとしていた。
でも、その手が届かなかった。
今回起きたことは、まさにこの構造でした。
「頑張れる人」ほど、このクセが強くなりやすい
会計事務所で働く方は、総じて真面目で責任感が強い方が多いです。
難関資格を突破してきた方も多く、 「自分に厳しく、ストイックに頑張ってきた人」が集まりやすい業界でもあります。
これは間違いなく素晴らしい資質です。
ただ、その真面目さと責任感が、「すべき思考」と結びついたとき、 自分を守る判断の邪魔をしてしまうことがあります。
「ちょっとしんどいな」と感じても、「まだ頑張れるはずだ」と自分を鼓舞し続ける。
そして、その積み重ねがある日突然、限界として現れる。
今回の職員さんが面談の中で何度も口にしたのは、 「この事務所が本当に好きなんです」という言葉でした。
だからこそ、無理をしてしまった。 だからこそ、休むことに罪悪感を感じてしまった。
「本人がもっと強ければよかった」という話ではないんです。 これは、真面目で仕事を愛する人ほど陥りやすい、構造的な落とし穴です。
組織として「受け取っていい」文化をつくる必要がある理由
ここで所長先生に誤解してほしくないことがあります。
「じゃあ、もっと声をかければよかったのか?」
それは違います。
声がけはすでにされていました。 足りなかったのは声がけの量ではなく、 「しんどいと言っても大丈夫だ」という職員側の自己許可です。
これは、個人の内側の問題であると同時に、 組織として「受け取っていい文化」を意図的につくることで、少しずつ変えられる問題でもあります。
「ミスしても責められない」 「弱音を吐いても笑われない」 「助けを求めても迷惑じゃない」
こうしたことが、言葉だけでなく日常の空気として伝わっている組織では、 「すべき思考」のクセが少しずつほぐれていきます。
逆に、制度や環境がどれだけ整っていても、 この空気がなければ、職員は「話せない」まま疲弊し続けます。
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「休職」は逃げではなく、戦略的な選択だ

今回の面談で、私が職員さんに一番伝えたかったことがあります。
「休むことは”逃げ”じゃない。むしろ”未来のための戦略”だと思う」
ということでした。
今、少し休むことで、数ヶ月後に元気に復帰できるかもしれない。
でも、無理して働き続けたら、 回復に1年、2年、それ以上かかることだってある。
メンタルが追い詰められてくると、視野が極端に狭くなります。 選択肢が見えなくなってしまうんです。
他人から見れば「そこまで頑張らなくてもいいのに」と思う状況でも、 本人には見えなくなっている。
だからこそ、外部の第三者がフラットな視点で寄り添い、 「選択肢があるよ」と示す必要があります。
そして所長先生自身も、 「休んでいいよ」「止まっていいよ」という言葉を、 日常的に使える存在になってほしいと思っています。
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所長先生が今日からできる、3つのこと

「でも、具体的に何をすればいいの?」
という話をしないと、もったいないですよね。
私が現場で繰り返しお伝えしていることを、3つに絞ってお伝えします。
① 「ミスへの反応」を意識的に変える
職員がミスをしたとき、所長先生がどう反応するか。 これが組織の空気を大きく左右します。
「なぜミスが起きたのか(仕組みの問題)」を一緒に考えるスタンスと、 「なぜミスをしたのか(個人の問題)」と捉えるスタンスは、 言葉は似ていますが、職員への影響はまったく別物です。
すぐに全部は変えられなくても、 まず「ミスの報告を責めない」ことから始めてみてください。
それだけで、職員が「話してもいいかもしれない」と感じる空気が少しずつ変わります。
② 「最近どう?」という場を仕組みとして持つ
「いつでも相談してね」という言葉だけでは、実は伝わりません。
「すべき思考」が強い人ほど、 「こんなことで相談するのは申し訳ない」と思ってしまうからです。
月1回、15分でいい。 「仕事の話じゃなくてもいい。最近どう?」と聞ける場を、 仕組みとして持っておくことが大切です。
「面談がある」という事実が、職員の安心感につながります。
③ 「休む・弱音を言う」を所長自身が肯定して見せる
これが一番難しくて、一番大切なことです。
所長先生自身が「休むことは悪いことじゃない」という姿勢を、 言葉と行動で示す。
「しっかり休んで戻っておいで」 「体が資本だから、無理するな」
こうした言葉が所長先生から自然に出てくる事務所は、 職員が「受け取っていい」と感じやすくなります。
文化は、制度ではなく、所長先生の日常の言動でつくられます。
「受け取っていい文化」も同じです。 所長先生が先に体現することで、少しずつ組織に染み渡っていきます。
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まとめ:「良い事務所」が、さらに「安心できる事務所」になるために

今回起きたことを整理すると、こうなります。
- 環境は整っていた
- 所長先生はフォローしていた
- それでも職員は「話せなかった」
- 「すべき思考」というクセが、サポートを受け取れなくさせていた
これは誰かの失敗の話ではありません。 会計業界の構造と、真面目な人が陥りやすい落とし穴の話です。
所長先生が責任を感じる必要はありません。 ただ、「受け取っていい文化」を意図的につくることは、 これから先、所長先生にしかできない仕事だと思っています。
そして、そんな事務所をつくった先に── 職員さんが本当の意味で力を発揮できる場所が生まれる。
それは、事務所の生産性にも、クライアントの満足度にも、 確実につながっていくはずです。
もし「うちの事務所、大丈夫かな?」と感じたことがある所長先生がいれば、 ぜひ一度、ゆっくりお話ししてみませんか。
今日も良い一日を!
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